個人事業主として開業届を提出し、希望に満ちたスタートを切ったあなた。
しかし、事業の運営と並行して考えなければならないのが「確定申告」です。
特に、会社員時代の給与所得とは異なる「事業所得」という言葉に、戸惑いを感じている方も多いのではないでしょうか。
「事業所得って、そもそも何?」
「どこまでが経費として認められるの?」
「確定申告で損をしないためには、どうすればいいんだろう?」
このような不安や疑問は、多くの個人事業主が最初に直面する壁です。
ご安心ください。
この記事では、確定申告の核となる「事業所得」の基礎知識から、具体的な計算方法、そして節税に繋がる重要なポイントまで、初心者の方にも分かりやすく徹底解説します。
この記事を読み終える頃には、事業所得への理解が深まり、自信を持って確定申告の準備を進められるようになっているはずです。
そもそも事業所得とは?給与所得や雑所得との違いを理解しよう
確定申告について考えるとき、最初のステップは自分の所得の種類を正しく理解することです。個人事業主の主な収入は「事業所得」に分類されますが、会社員時代の「給与所得」や、副業などで得た「雑所得」とは明確な違いがあります。これらの違いを把握することが、適切な申告への第一歩です。
事業所得の定義とは?
事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業を営んでいる人の、その事業から生ずる所得のことを指します。ポイントは、「独立・継続・反復」して行われる仕事による所得であるという点です。一度きりの単発の仕事ではなく、事業として責任と計画性を持って継続的に行っている活動から得た収入が、事業所得に該当します。あなたが個人事業主としてこれから得ていく収入は、基本的にこの事業所得として申告することになります。
給与所得との明確な違い
給与所得は、会社などの雇用主と雇用契約を結び、労働の対価として受け取る給料や賞与のことです。最大の違いは「雇用契約の有無」です。会社員は会社に勤務時間や業務内容を管理されますが、個人事業主は誰かに雇われることなく、自らの裁量と責任で事業を運営します。そのため、会社員時代のように会社が年末調整をしてくれることはなく、自分自身で一年間の所得を計算し、税金を納める「確定申告」を行う必要があります。
間違えやすい「雑所得」との境界線
事業所得と最も混同しやすいのが「雑所得」です。雑所得は、他の9種類の所得(事業所得や給与所得など)のいずれにも当てはまらない所得を指し、例えば、公的年金や、事業とは言えない規模の副業による収入(例:単発の講演料、フリマアプリでの売上など)がこれに該当します。
(※2025年11月時点の情報です。国税庁の指針では、帳簿や請求書などを保存している場合、主たる収入に対する割合が10%未満でない限り、事業所得として認められるケースが多くなっています。)
両者の境界線は、その活動が「事業」として成立しているかどうかです。継続性や営利性、投下した資本の有無などが総合的に判断されます。なぜこの区別が重要かというと、事業所得で申告すると、後述する「青色申告」を選択でき、大きな節税メリットを受けられるからです。継続的に収入を得ていくのであれば、雑所得ではなく事業所得として申告できるよう、事業の体制を整えることが賢明と言えるでしょう。
【具体例で解説】事業所得の計算方法と経費にできるもの・できないもの
事業所得の概念を理解したら、次は具体的な計算方法を見ていきましょう。計算自体は非常にシンプルですが、「何が必要経費になるのか」を正しく判断することが、節税と適切な申告の鍵を握ります。
事業所得の基本計算式
事業所得は、以下の計算式で算出されます。
総収入金額 − 必要経費 = 事業所得の金額
「総収入金額」とは、商品やサービスの対価として得た売上金の合計です。そして、「必要経費」とは、その収入を得るために直接必要となった費用のことです。この必要経費を漏れなく計上することが、課税対象となる所得を圧縮し、結果的に所得税や住民税の節税に繋がります。
どこまでOK?必要経費として認められる費用の具体例
「収入を得るために直接必要であったこと」が証明できれば、多くの費用が必要経費として認められます。以下に代表的なものをリストアップします。
- 地代家賃: 事業で使用している事務所や店舗の家賃。
- 水道光熱費: 事務所の電気・ガス・水道代。
- 旅費交通費: 取引先への移動にかかる電車代や、出張時の宿泊費など。
- 通信費: 事業用のインターネット回線や携帯電話の料金。
- 消耗品費: 文房具やコピー用紙など、短期間で消費する物品の購入費。
- 接待交際費: 取引先との打ち合わせでの飲食代や、お中元・お歳暮など。
- 広告宣伝費: Webサイトの制作費や、チラシの印刷代など。
自宅を事務所として使っている場合は、家賃や水道光熱費の一部を経費にできます。これを「家事按分(かじあんぶん)」と呼びます。例えば、家賃10万円の住居のうち、30%を事業用スペースとして使用している場合、「10万円 × 30% = 3万円」を地代家賃として経費計上できます。この事業使用割合は、使用時間や面積など、合理的な基準で設定する必要があります。
これはNG!必要経費にできない費用の注意点
一方で、以下のような費用は必要経費として認められません。
- 事業に無関係な個人的な支出: 家族との食事代や、趣味の物品の購入費など。
- 所得税や住民税: これらは個人として納める税金であり、経費にはなりません。
- 生計を一つにする親族への給与: 原則として経費にできません。(※青色申告の「青色事業専従者給与」という制度を利用すれば可能になります)
経費になるかどうかの判断に迷った際は、「この支出がなければ、売上は得られなかったか?」と自問自答してみると良いでしょう。日頃から領収書やレシートを保管し、何に使った費用なのかをメモしておく習慣をつけることが、確定申告時の作業を格段に楽にしてくれます。
節税効果が最大化する!青色申告で事業所得を申告するメリット
事業所得で確定申告を行う最大のメリットは、「青色申告」という制度を利用できることです。事前の届出が必要ですが、白色申告にはない数多くの特典があり、節税に絶大な効果を発揮します。ここでは、特に重要な3つのメリットをご紹介します。
最大65万円!青色申告特別控除のインパクト
青色申告の最大の魅力が、所得金額から一定額を差し引ける「青色申告特別控除」です。控除額は帳簿の付け方や申告方法によって、10万円、55万円、65万円の3段階に分かれています。
- 65万円控除: 「複式簿記」で記帳し、確定申告書を「e-Tax(電子申告)」で期限内に提出する。
- 55万円控除: 「複式簿記」で記帳し、確定申告書を郵送や持参で期限内に提出する。
- 10万円控除: 「簡易簿記」で記帳する。
例えば、課税所得が400万円の場合、所得税率は20%です。65万円の控除を受けられれば、「65万円 × 20% = 13万円」も所得税が安くなります。さらに住民税(税率約10%)も「65万円 × 10% = 6.5万円」安くなるため、合計で約20万円もの節税に繋がるのです。このメリットを享受しない手はありません。
赤字を3年間繰り越せる「純損失の繰越控除」
開業したばかりの年は、設備投資などで赤字になってしまうことも少なくありません。青色申告では、その年に出た赤字(純損失)を、翌年以降3年間にわたって繰り越し、将来の黒字と相殺することができます。例えば、1年目に100万円の赤字、2年目に150万円の黒字が出たとします。この場合、2年目の黒字から1年目の赤字100万円を差し引き、課税所得を50万円に圧縮できます。事業が軌道に乗るまでのセーフティネットとして、非常に心強い制度です。
家族への給与が経費になる「青色事業専従者給与」
配偶者や親族が事業を手伝ってくれている場合、その対価として支払う給与を全額必要経費にできるのが「青色事業専従者給与」です。適用には、「事前に届出書を提出する」「その事業に専ら従事している」などの要件がありますが、家族に正当な給与を支払うことで、世帯全体での所得税を大きく節税できる可能性があります。
これらの強力なメリットを持つ青色申告を行うためには、大前提として「開業届」と「青色申告承認申請書」を税務署に提出する必要があります。まだ手続きがお済みでない方や、これから事業を始める方は、まず開業手続きから始めましょう。詳しい手続きについては、「【開業準備ガイド】個人事業主になるには?無料の「マネーフォワード クラウド開業届」で書類作成から提出まで完全サポート!」で分かりやすく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
確定申告で慌てないために。開業後にすぐやるべきこと
事業所得の申告、特に節税メリットの大きい青色申告をスムーズに行うためには、日々の準備が何よりも重要です。確定申告の時期になってから慌てないよう、開業したらすぐに以下のことに取り組みましょう。
日々の記帳の習慣化
青色申告(特に55万円・65万円控除)を行うには、日々の取引を「複式簿記」というルールに則って記録する必要があります。「簿記」と聞くと難しく感じるかもしれませんが、要は「いつ、どこで、何に、いくら使ったか(儲かったか)」を記録する家計簿の延長線上にあるものです。毎日5分でも良いので、レシートや請求書を整理し、帳簿に記録する時間を確保しましょう。この小さな習慣が、確定申告期の負担を劇的に軽減します。
会計ソフトの導入を検討する
日々の記帳を手作業や表計算ソフトで行うのは、非常に手間がかかり、ミスも起こりがちです。そこでおすすめしたいのが「会計ソフト」の導入です。現在の会計ソフトは非常に高機能で、銀行口座やクレジットカードを連携すれば、取引データを自動で取り込み、勘定科目を推測して仕訳候補を提案してくれます。簿記の知識に自信がなくても、ガイドに従って操作するだけで、青色申告に必要な帳簿や確定申告書を簡単に作成できます。初期投資はかかりますが、時間と労力、そして節税額を考えれば、十分に元が取れるはずです。
開業届と青色申告承認申請書の提出
何度か触れましたが、事業所得で申告し、青色申告のメリットを受けるためには、税務署への書類提出が不可欠です。「開業届」は事業を開始した日から1ヶ月以内に、「青色申告承認申請書」は、青色申告をしたい年の3月15日(その年の1月16日以降に開業した場合は、開業日から2ヶ月以内)までに提出する必要があります。これらの書類は、いわば個人事業主としてのスタートラインであり、節税へのパスポートです。まだ提出していない方は、最優先で手続きを進めましょう。
「書類作成って難しそう…」「役所に行く時間がない…」と感じる方もいるかもしれません。そんな方には、無料で開業書類を作成できるサービスの利用がおすすめです。例えば「マネーフォワード クラウド開業届」なら、画面の案内に沿って入力するだけで、必要な書類一式を自動で作成してくれます。スマホからでも利用でき、提出方法まで丁寧にガイドしてくれるので、初心者でも迷うことなく手続きを完了できます。会計ソフトの導入と合わせて検討してみてはいかがでしょうか。
まとめ:事業所得を正しく理解して、賢い個人事業主になろう
今回は、個人事業主の確定申告における「事業所得」について、その基本から計算方法、節税に繋がる青色申告のメリットまでを解説しました。
要点をまとめると以下の通りです。
- 事業所得は、「独立・継続・反復」して行う事業から得られる所得のこと。
- 事業所得は「総収入金額 − 必要経費」で計算され、経費を漏れなく計上することが節税の第一歩。
- 事業所得で申告するなら、最大65万円の控除など、数多くのメリットがある「青色申告」が断然お得。
- 青色申告のためには、日々の記帳と、事前の「開業届」「青色申告承認申請書」の提出が必須。
確定申告は、年に一度の義務ではありますが、事業の成績表であり、経営状況を見直す良い機会でもあります。事業所得の仕組みを正しく理解し、会計ソフトなどを活用して日々の準備を怠らなければ、決して難しいものではありません。
これから開業する方、まだ手続きがお済みでない方は、まずは第一歩として開業の準備から始めてみましょう。具体的な手順は「【開業準備ガイド】個人事業主になるには?無料の「マネーフォワード クラウド開業届」で書類作成から提出まで完全サポート!」で詳しく解説しています。
そして、開業手続きと合わせて、日々の経理を効率化し、確定申告を楽にする会計ソフトの導入もぜひ検討してみてください。「マネーフォワード クラウド開業届」は、無料で開業手続きをサポートしてくれるだけでなく、その後の会計業務もスムーズに連携できるため、これから事業を始めるあなたの力強い味方となってくれるでしょう。
