個人事業主として開業すると、事業の運営だけでなく、税金の管理という新たなタスクが生まれます。
特に、従業員を雇用したり、外部の専門家に報酬を支払ったりする場合に発生するのが「源泉所得税」の納付です。
この納付は原則として毎月行う必要があり、多忙な事業主にとっては大きな事務負担になりかねません。
しかし、ある手続きを行うだけで、その負担を劇的に軽減できる制度があることをご存知でしょうか。
それが、今回ご紹介する「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」の提出です。
この記事では、この特例制度がどのようなものか、メリット・デメリット、そして具体的な申請方法まで、2025年11月時点の情報に基づき、分かりやすく解説します。
開業したばかりの方、これから開業する方は、ぜひ最後までお読みいただき、スムーズな事業運営にお役立てください。
「源泉所得税の納期の特例」とは?基本を理解しよう
「名前が長くて難しそう…」と感じるかもしれませんが、制度自体は非常にシンプルで、小規模事業者にとって大きなメリットがあります。まずは、この制度の基本をしっかりと押さえておきましょう。
そもそも源泉所得税とは?
源泉所得税とは、給与や報酬などを支払う側が、支払う金額からあらかじめ所得税を差し引いて(天引きして)、受け取る本人に代わって国に納付する税金のことです。会社員であれば、毎月の給与から天引きされている所得税がこれにあたります。
個人事業主の場合、一人で事業を行っているうちは関係ないと思われがちですが、以下のようなケースで源泉徴収義務者となり、源泉所得税を納付する必要があります。
- 従業員を雇用し、給与を支払う場合
- 税理士、弁護士、司法書士など特定の資格を持つ専門家へ報酬を支払う場合
- フリーランスのデザイナーやライターなどに原稿料やデザイン料などの報酬を支払う場合
これらの支払いがある場合、原則として、徴収した源泉所得税を支払った月の翌月10日までに金融機関や税務署の窓口で納付しなければなりません。毎月この手続きを行うのは、思いのほか手間がかかる作業です。
「納期の特例」で納税が年2回に!
そこで登場するのが「源泉所得税の納期の特例」です。この特例の適用を受けると、毎月行っていた納付が、年に2回にまとめられます。具体的には、以下のスケジュールになります。
- 1月〜6月分 → 7月10日までに納付
- 7月〜12月分 → 翌年1月20日までに納付
毎月の納付手続きが年2回になることで、事務作業の時間を大幅に削減できます。ただし、この特例を受けられるのは、給与の支払いを受ける人が常時10人未満の事業者に限られます。開業したばかりの個人事業主や小規模な法人にとっては、まさにうってつけの制度と言えるでしょう。
納期の特例を適用するメリットとデメリット
事務負担が軽減されるという大きなメリットがある一方で、知っておくべき注意点も存在します。メリットとデメリットの両方を理解した上で、ご自身の事業スタイルに合うかどうかを判断しましょう。
メリット1:圧倒的な事務負担の軽減
最大のメリットは、やはり事務負担の大幅な軽減です。源泉所得税の納付には、毎月、納付額を計算し、納付書を作成し、金融機関や税務署へ足を運ぶ(またはオンラインで手続きする)という一連の作業が発生します。これが年12回から年2回になるインパクトは絶大です。
特に、本業が忙しい個人事業主にとって、経理作業に費やす時間を削減できるのは大きな価値があります。空いた時間を事業の成長や自身のスキルアップ、あるいは休息に充てることができ、より生産的な事業運営が可能になります。
メリット2:資金繰りの改善
もう一つの見逃せないメリットが、資金繰りの改善です。本来であれば毎月納付するはずの税金を、最大で半年間手元に置いておくことができます。これにより、キャッシュフローに余裕が生まれ、急な出費や事業投資への対応がしやすくなります。
例えば、1月に支払う給与から徴収した源泉所得税は、通常なら2月10日までに納付しなければなりませんが、特例を適用していれば、納付は7月10日です。この約5ヶ月間、納税資金を運転資金として活用できるのです。ただし、これはあくまで納税の「先延ばし」であり、免除ではありません。納付月にはまとまった金額が必要になるため、計画的な資金管理が不可欠です。
知っておくべきデメリットと注意点
良いことばかりに見える納期の特例ですが、デメリットも存在します。それは、半期に一度、まとまった金額の納税が必要になることです。毎月コツコツ納付するのに比べ、半期分を一括で納付するため、一回あたりの負担額は大きくなります。7月と1月の納付時期に資金がショートしないよう、あらかじめ納税資金を別途確保しておくなどの対策が必要です。
また、納付をうっかり忘れてしまうリスクも高まります。納付期限を過ぎてしまうと、不納付加算税や延滞税といったペナルティが課される可能性があります。年2回だからこそ、スケジュール管理を徹底し、絶対に忘れないように注意しましょう。
「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」の提出方法
この便利な特例を受けるためには、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を税務署に提出し、承認を受ける必要があります。手続きは決して難しくありません。特に、開業時に一手間加えるだけで、その後の事業運営が格段に楽になります。
申請書はいつ、どこに提出する?
- 提出時期:原則として、特例の適用を受けたい月の前月末までに提出します。例えば、7月分から特例を受けたい場合は6月30日までに提出が必要です。
- ベストタイミング:最もおすすめなのが、開業届を提出するタイミングで一緒に提出することです。開業時には、他にも「青色申告承認申請書」など、いくつかの書類を税務署に提出します。これらをまとめて一度に済ませてしまうのが最も効率的です。
- 提出先:納税地を所轄する税務署です。
申請書を提出した月の翌々月の納付分から特例が適用されます。例えば、4月15日に申請書を提出した場合、4月、5月に支払う給与等にかかる源泉所得税はそれぞれ5月10日、6月10日に納付し、6月以降に支払う給与等にかかる源泉所得税から特例の対象となります。
無料で簡単!「マネーフォワード クラウド開業届」で書類作成
申請書の作成と聞くと、少し身構えてしまうかもしれません。もちろん、国税庁のウェブサイトから様式をダウンロードして手書きで作成することも可能です。しかし、開業準備で忙しい中、慣れない書類作成に時間を取られるのは避けたいところです。
そこでおすすめしたいのが、会計ソフトで有名なマネーフォワードが提供する「マネーフォワード クラウド開業届」です。このツールは、開業届だけでなく、青色申告承認申請書、そして今回解説している「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」まで、必要な書類一式を無料で作成できます。
画面の案内に沿って簡単な質問に答えていくだけで、専門的な知識がなくても、間違いのない書類が自動で完成します。作成した書類はPDFでダウンロードして印刷し、税務署に提出するだけ。開業手続きに関する不安や手間を大幅に削減できる、まさに救世主のようなサービスです。
個人事業主としてのスタートをスムーズに切りたい方は、こうした便利なツールを賢く活用しない手はありません。
まとめ
今回は、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」について解説しました。最後に要点をまとめます。
- 「納期の特例」とは、毎月の源泉所得税の納付を年2回にまとめられる制度。
- 対象は、給与の支払いを受ける人が常時10人未満の事業者。
- 事務負担の軽減と資金繰りの改善という大きなメリットがある。
- 一方で、半期に一度のまとまった納税に備える必要がある。
- 申請は、開業届と同時に提出するのが最も効率的でスムーズ。
この特例は、特にリソースが限られる開業当初の個人事業主にとって、事業を軌道に乗せるための強力なサポートとなります。ご自身の事業で従業員を雇用する可能性がある場合や、外部に報酬を支払う機会がある場合は、ぜひこの制度の活用を検討してみてください。
個人事業主としての第一歩をスムーズに踏み出すためには、開業手続き全体の流れを把握しておくことが重要です。詳しくは「【開業準備ガイド】個人事業主になるには?無料の「マネーフォワード クラウド開業届」で書類作成から提出まで完全サポート!」で網羅的に解説していますので、ぜひ併せてご覧ください。
また、書類作成に少しでも不安がある方は、無料で使える「マネーフォワード クラウド開業届」を活用すれば、迷うことなく手続きを完了できます。便利なツールを味方につけて、幸先の良いスタートを切りましょう。
