「配偶者に手伝ってもらっているけど、給与を経費にできないか」
「家族経営なのに、なぜ家族への給与が経費にならないの?」
個人事業主として事業を営んでいると、このような疑問を持つ方は多いのではないでしょうか。
実は、青色申告をしている個人事業主には「青色事業専従者給与」という制度があり、一定の要件を満たせば家族への給与を経費として計上できます。
この制度を活用すれば、年間数十万円から100万円以上の節税効果を得られる可能性があります。
本記事では、青色事業専従者給与の仕組みから具体的な手続き方法、注意点まで、実務で役立つ情報を詳しく解説します。
読み終わる頃には、あなたも家族への給与を適切に経費計上し、事業の収益性を高める方法が身についているはずです。
青色事業専従者給与制度の基本と重要性
個人事業主の多くは、配偶者や親族の協力を得て事業を営んでいます。しかし、通常の場合、生計を一にする家族への給与は経費として認められません。これは、家族間での恣意的な所得分散を防ぐための税法上の原則です。
ところが、青色申告者には特例として「青色事業専従者給与」という制度が設けられています。この制度により、一定の要件を満たす家族従業員への給与を、必要経費として計上することが可能になります。
制度の背景と税務上の意義
なぜこのような特例が設けられているのでしょうか。それは、家族経営の事業において、実際に労働の対価として支払われる給与と、単なる所得分散のための給与を区別する必要があるからです。
例えば、飲食店を経営する個人事業主のケースを考えてみましょう。配偶者が毎日8時間、接客や調理補助として働いている場合、その労働に見合った給与を支払うのは当然です。しかし、税法上の原則では、この給与は経費として認められません。
このような不合理を解消するために設けられたのが、青色事業専従者給与制度なのです。
青色申告との関係性
青色事業専従者給与は、青色申告の特典の一つです。白色申告では「事業専従者控除」として最大86万円(配偶者)または50万円(その他の親族)の控除しか受けられません。
一方、青色申告なら実際に支払った給与額を経費計上できるため、より大きな節税効果が期待できます。まだ青色申告をしていない方は、個人事業主になるための開業準備ガイドを参考に、開業届と青色申告承認申請書の提出を検討してみてください。
青色事業専従者給与を適用するための具体的な要件と手続き
青色事業専従者給与を適用するには、いくつかの要件を満たす必要があります。ここでは、実務で必要となる具体的な要件と手続きを詳しく解説します。
青色事業専従者の要件
青色事業専従者として認められるには、以下の4つの要件をすべて満たす必要があります。
- 生計を一にする配偶者その他の親族であること
同居している必要はありませんが、生活費を共にしている関係である必要があります。 - その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること
中学生以下の子供は対象外となります。 - その年を通じて6か月を超える期間、事業に従事していること
年の途中から従事した場合は、従事可能期間の2分の1を超える期間従事している必要があります。 - 他に職業を持っていないこと(専従であること)
パートやアルバイトをしている場合は、原則として認められません。
必要な届出書類と提出期限
青色事業専従者給与を適用するためには、「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に提出する必要があります。
提出期限:
- 新規開業の場合:開業から2か月以内
- 既存事業者の場合:適用を受けようとする年の3月15日まで
- 年の途中で専従者が増えた場合:事実発生から2か月以内
届出書には、専従者の氏名、続柄、職務内容、給与額、賞与の支給時期などを記載します。一度提出した内容を変更する場合は、変更届出書の提出が必要です。
適正な給与額の設定方法
青色事業専従者給与は「労務の対価として相当な金額」である必要があります。税務調査で否認されないためには、以下の点に注意して給与額を設定しましょう。
- 類似業種の給与水準を参考にする
同業他社で同様の業務を行う従業員の給与相場を調査し、それを基準に設定します。 - 職務内容と勤務時間を明確にする
タイムカードや業務日報で勤務実態を記録し、給与額の妥当性を説明できるようにします。 - 専従者の経験や能力を考慮する
単純作業なら最低賃金程度、専門的な業務なら相応の給与額を設定します。
例えば、配偶者が経理事務と接客を担当し、1日6時間、月20日勤務する場合、月額15万円〜25万円程度が相場となるでしょう。
青色事業専従者給与の実務上の注意点と節税効果
青色事業専従者給与を活用する際には、いくつかの重要な注意点があります。また、具体的にどの程度の節税効果があるのかも見ていきましょう。
配偶者控除・扶養控除との関係
青色事業専従者給与を受け取る家族は、配偶者控除や扶養控除の対象から外れます。これは非常に重要なポイントです。
例えば、配偶者に年間103万円の給与を支払った場合:
- 経費計上による節税効果:103万円 × 所得税率(仮に20%)= 20.6万円
- 失う配偶者控除:38万円 × 所得税率(20%)= 7.6万円
- 実質的な節税効果:20.6万円 – 7.6万円 = 13万円
このように、単純に給与を支払えば良いわけではなく、控除との兼ね合いを考慮する必要があります。
社会保険への加入義務
青色事業専従者も、一定の要件を満たす場合は社会保険への加入が必要になります。
- 健康保険・厚生年金:個人事業主は強制適用事業所ではないため、原則加入義務はありません
- 雇用保険:同居の親族は原則として対象外
- 労災保険:同居の親族でも、一定の要件を満たせば加入可能
ただし、国民健康保険料は世帯の所得に応じて計算されるため、専従者給与により保険料が増加する可能性があります。
税務調査での指摘事項
税務調査では、青色事業専従者給与について以下の点がよく確認されます。
- 実際に事業に従事しているか(勤務実態の確認)
- 給与額が適正か(過大給与の認定)
- 他に収入がないか(専従要件の確認)
- 届出書の内容と実態が一致しているか
これらの指摘を受けないよう、日頃から適切な記録を残しておくことが重要です。
青色事業専従者給与と他の選択肢の比較
家族を事業に参加させる方法は、青色事業専従者給与だけではありません。それぞれの選択肢のメリット・デメリットを比較してみましょう。
白色申告の事業専従者控除との比較
項目 | 青色事業専従者給与 | 白色事業専従者控除 |
---|---|---|
控除額 | 実際の給与額(上限なし) | 配偶者86万円、その他50万円 |
届出 | 必要 | 不要 |
給与の支払い | 必要 | 不要 |
源泉徴収 | 必要 | 不要 |
年間の給与額が86万円を超える場合は、青色事業専従者給与の方が有利になります。
外注化という選択肢
家族を個人事業主として独立させ、業務委託契約を結ぶ方法もあります。この場合のメリット・デメリットは以下の通りです。
メリット:
- 専従要件がないため、他の仕事との兼業が可能
- 消費税の仕入税額控除が受けられる
- 配偶者控除等が適用できる場合がある
デメリット:
- 実態が雇用関係と判断されるリスク
- 契約書や請求書などの書類管理が煩雑
- 源泉徴収の必要がない反面、確定申告が必要
まとめ:青色事業専従者給与を上手に活用するために
青色事業専従者給与は、家族経営の個人事業主にとって大きな節税効果をもたらす制度です。ただし、適用要件や手続きを正しく理解し、適切に運用することが重要です。
本記事で解説した要点をまとめると:
- 青色申告者の特典として、家族への給与を経費計上できる
- 専従者の要件を満たし、事前に届出書を提出する必要がある
- 給与額は労務の対価として適正な金額を設定する
- 配偶者控除等との兼ね合いを考慮して判断する
- 勤務実態を証明できる記録を残しておく
まだ開業届を提出していない方は、青色申告の承認を受けることから始めましょう。マネーフォワード クラウド開業届なら、開業に必要な書類を無料で簡単に作成できます。
青色事業専従者給与制度を正しく理解し活用することで、家族の協力を得ながら、事業の発展と節税の両立を実現できるでしょう。