導入:なぜMakeのシナリオ設計が重要なのか
Makeで自動化を始めて数ヶ月。
最初は簡単だったシナリオも、機能を追加していくうちに「スパゲティコード」のように複雑になってしまった経験はありませんか?
「どこで何をしているのか分からない」「似たような処理を何度も作っている」「エラーが起きても原因が特定できない」
こんな悩みを抱えているなら、シナリオ設計を見直すタイミングかもしれません。
本記事では、100以上のMakeシナリオを構築してきた経験から導き出した、再利用性と保守性を高める実践的な設計手法をお伝えします。
この記事を読み終える頃には、複雑なビジネスプロセスも整理された形で自動化できるようになり、メンテナンスの手間も大幅に削減できるでしょう。
Makeシナリオが複雑化する3つの原因
そもそも、なぜMakeのシナリオは複雑になってしまうのでしょうか。私が見てきた中で、特に多い原因は以下の3つです。
1. 場当たり的な機能追加
「とりあえず動けばいい」という考えで機能を追加し続けると、シナリオは必然的に複雑化します。例えば、最初はGoogleスプレッドシートからSlackに通知を送るだけだったシナリオに、「条件分岐を追加」「エラー通知も別チャンネルに」「データの加工処理も必要」と機能を追加していくと、気づけば50個以上のモジュールが絡み合う巨大なシナリオになってしまいます。
2. 命名規則の不統一
変数名やシナリオ名に一貫性がないと、後から見返したときに理解に時間がかかります。「test_data」「TestData」「テストデータ」など、同じ意味の変数が異なる名前で存在していると、どれが最新なのか、どこで使われているのかが分からなくなります。
3. エラーハンドリングの欠如
APIの応答遅延、データフォーマットの不整合、外部サービスの一時的な障害など、実運用では様々なエラーが発生します。これらを想定せずに作られたシナリオは、エラーが発生するたびに手動での対応が必要になり、自動化の意味が薄れてしまいます。
実際、私が相談を受けたある企業では、300個のモジュールを含む巨大なシナリオがあり、エラーが発生しても原因特定に3時間以上かかるという状況でした。これでは自動化どころか、かえって業務効率が悪化してしまいます。
再利用性と保守性を高める5つの設計原則
では、どうすればMakeシナリオを整理された状態で保てるのでしょうか。ここからは、実践的な設計原則を5つご紹介します。
1. モジュール化による機能の分離
大きなシナリオを小さな機能単位に分割することが、保守性向上の第一歩です。Makeでは「サブシナリオ」機能を使って、処理を分離できます。
実装例:顧客データ処理の分離
- メインシナリオ:全体の流れを管理
- サブシナリオA:データの取得と検証
- サブシナリオB:データの加工と変換
- サブシナリオC:各システムへの配信
この方法により、各サブシナリオは独立してテストでき、他のプロジェクトでも再利用可能になります。実際、この設計により開発時間を40%短縮できた事例もあります。
2. 統一された命名規則の採用
命名規則を統一することで、誰が見ても理解しやすいシナリオになります。私が推奨する命名規則は以下の通りです。
シナリオ名の規則:
- 用途_対象_アクション(例:CRM_Customer_DailySync)
- 環境を含める(例:PROD_CRM_Customer_DailySync)
変数名の規則:
- キャメルケースで統一(例:customerEmail、orderTotal)
- 用途が明確な名前(例:tempDataではなくunprocessedOrders)
3. エラーハンドリングの標準化
すべてのシナリオに共通のエラーハンドリング機構を実装することで、トラブルシューティングが容易になります。
推奨するエラーハンドリング構成:
- 各APIコールの後にエラーハンドラーを配置
- エラー内容を構造化してログに記録
- 重要度に応じて通知先を分ける(Slack、メール等)
- リトライ機能の実装(最大3回まで、間隔を空けて再実行)
例えば、外部APIへのリクエストでは、タイムアウトエラーと認証エラーで異なる対応を行うように設定します。タイムアウトは自動リトライ、認証エラーは管理者への即時通知といった具合です。
4. データ構造の標準化
シナリオ間でデータをやり取りする際、データ構造を標準化しておくと、モジュールの再利用性が格段に向上します。
標準データ構造の例:
{ "metadata": { "scenarioId": "PROD_CRM_Customer_DailySync", "executionId": "{{$execution.id}}", "timestamp": "{{now}}" }, "data": { "customers": [...] }, "status": { "success": true, "errors": [] } }
この構造により、どのシナリオからのデータかが明確になり、エラー追跡も容易になります。
5. ドキュメント化の徹底
Makeのシナリオ内にコメント機能を活用して、処理の意図を明確に記録します。特に以下の情報は必須です。
- シナリオの目的と概要
- 入出力データの形式
- 依存関係(他のシナリオ、外部システム等)
- エラー時の対応方法
- 更新履歴
実践的な実装テクニック
ここからは、実際にMakeで使える具体的なテクニックをご紹介します。
変数の効果的な活用
Makeの「Tools」モジュールにある「Set variable」と「Get variable」を活用することで、シナリオ内でのデータの受け渡しが明確になります。
活用例:API認証情報の一元管理
- シナリオの最初に「Set variable」でAPI認証情報を設定
- 各APIモジュールでは「Get variable」で認証情報を参照
- 認証情報の変更時は1箇所の修正で完了
データストアの戦略的利用
Makeのデータストアは、シナリオ間でデータを共有する強力な機能です。以下のような用途で活用できます。
- 処理済みデータの記録:重複処理を防ぐためのIDリスト管理
- 設定値の一元管理:閾値や通知先などの設定情報
- 一時的なキャッシュ:APIレート制限対策としてのデータ保存
Webhookの効率的な設計
複数のシステムと連携する際、Webhookの設計は重要です。以下の点に注意しましょう。
- レスポンスは即座に返す(200 OK)
- 重い処理は非同期で実行
- リクエストの検証機能を実装
- 冪等性を考慮した設計
他の自動化ツールとの比較
Makeのシナリオ設計において、他のツールとの違いを理解しておくことも重要です。
Zapierとの比較
Zapierは直線的なワークフローに強みがありますが、Makeは複雑な分岐やループ処理に優れています。そのため、Makeでは設計の自由度が高い分、構造化された設計がより重要になります。
n8nとの比較
n8nはオープンソースでカスタマイズ性が高いですが、Makeはビジュアルエディタの使いやすさで勝ります。ただし、その分、視覚的に複雑になりやすいため、モジュール化の重要性が増します。
詳しいMakeの機能や料金体系については、Make完全ガイド記事で詳しく解説していますので、基本的な使い方を確認したい方はぜひご覧ください。
まとめ:今すぐ始められる改善アクション
Makeシナリオの設計改善は、一度に全てを行う必要はありません。まずは以下の3つから始めてみてください。
- 既存シナリオの棚卸し:現在のシナリオをリストアップし、複雑度を評価する
- 命名規則の統一:新規作成分から統一された命名規則を適用する
- エラーハンドリングの追加:最も重要なシナリオから順次エラーハンドラーを実装する
これらの改善により、シナリオの保守にかかる時間を50%以上削減できる可能性があります。また、チーム内でのナレッジ共有も容易になり、属人化のリスクも軽減できます。
Makeの真の力は、適切に設計されたシナリオによって発揮されます。今回ご紹介した設計原則を実践することで、より効率的で信頼性の高い自動化システムを構築できるでしょう。
まだMakeを使い始めていない方は、こちらから無料で始められます。ぜひ、本記事の設計原則を意識しながら、最初から整理されたシナリオ作りに挑戦してみてください。