本記事はGoogle Workspace Updatesブログ( https://workspaceupdates.googleblog.com/ )の情報を基に、2025年8月28日に作成されました。
Google Workspaceを管理されている皆様、こんにちは。
あなたの組織のGoogle Driveには、日々、どれくらいのファイルが、新たに作成され、共有され、そして変更されているでしょうか。
その中には、経営戦略に関わる最重要機密、お客様の個人情報、そして組織の未来を左右する知的財産など、絶対に守らなければならない、膨大な数の「データ資産」が含まれています。
これらの資産が、今、どのような状態にあるのか。
「誰が、どのファイルにアクセスできるのか?」
「意図せず、危険な形で社外に共有されてしまっているファイルはないか?」
「機密ラベルが、正しく付与されているか?」
こうした、組織全体のデータ資産の状況を、網羅的に、そして継続的に把握することは、セキュリティリスクの特定や、コンプライアンス遵守の証明において、極めて重要です。
この「データの棚卸し」を実現する強力なツールとして、Googleは「Google Driveインベントリレポート」機能を提供しています。そしてこの度、そのレポートの鮮度と精度を、新たな次元へと引き上げる、待望のアップデートがオープンベータ版として発表されました。
今回は、あなたの組織のデータガバナンス体制を、よりプロアクティブで、より強固なものへと進化させる、「インベントリレポートのBigQueryへの日次エクスポート」機能について、その全貌と戦略的な活用法を詳しく解説していきます。
前提知識:「Driveインベントリレポート」と「BigQuery」連携
今回のアップデートの重要性を理解するために、まずは、この機能の2つの構成要素について、簡単におさらいしましょう。
Google Driveインベントリレポート:
これは、あなたの組織のGoogle Drive内に存在する、すべてのファイル(ドキュメント、スプレッドシート、スライド、PDFなど)に関する、詳細なメタデータ(付帯情報)の一覧です。具体的には、「ファイル名」「オーナー」「作成日」「最終更新日」「ファイルサイズ」「共有設定(誰に、どの権限で共有されているか)」「適用されているラベル」といった、ファイルの戸籍情報のようなものが、網羅的にリストアップされます。BigQueryへのエクスポート:
この膨大なインベントリレポートを、単なるリストとしてではなく、より高度に分析するために、Google Cloudの強力なデータウェアハウスサービスである「BigQuery」へ、直接エクスポートする機能が提供されています。BigQueryにデータを投入することで、SQLという言語を使って、複雑な条件でのデータ抽出や集計、可視化が可能になります。
この連携により、管理者は、APIを直接叩くといった専門的な技術を使わなくても、組織のデータ資産の全体像を、深く、そして多角的に分析することができるのです。
これまでの課題:週次レポートの「タイムラグ」
これまでも、このBigQueryへのエクスポート機能は、非常に強力でした。しかし、一つだけ、大きな制約がありました。それは、エクスポートの頻度が「週に一度」に限定されていたことです。
週次のレポートは、組織のデータガバナンスの全体的な傾向を把握するには十分です。しかし、セキュリティの世界では、脅威は日々、刻々と変化します。
「昨日、ある従業員が、誤って機密情報を含むフォルダを、社外の個人アカウントに『編集者』権限で共有してしまった」
このようなインシデントが発生した場合、週次のレポートでは、その発見が最大で7日間も遅れてしまう可能性がありました。この「タイムラグ」は、迅速な対応が求められるセキュリティ運用において、致命的な弱点となり得たのです。
今回のアップデートの核心:「週次」から「日次」へ
今回のオープンベータ版リリースの核心は、非常にシンプルでありながら、そのインパクトは絶大です。
それは、「DriveインベントリレポートのBigQueryへのエクスポートを、これまでの週次に加え、『毎日』の頻度でスケジュールできるようになった」という点にあります。
これにより、管理者は、前日までのほぼリアルタイムに近い状態で、組織のデータ資産の全貌を把握し、分析することが可能になります。週次レポートの「静的な健康診断」から、日次レポートによる「動的なモニタリング」へ。これは、データガバナンスのアプローチを、事後対応型から、プロアクティブ(予防的)なものへと、根本的に変革させる力を持っています。
なぜ「日次」が重要なのか?戦略的な活用例
レポートの頻度が「毎日」になることで、具体的にどのような、新しいレベルのデータガバナンスが可能になるのでしょうか。
1. セキュリティインシデントの「早期発見・早期対応」
これが、日次レポートがもたらす最大の価値です。
活用例:危険な共有設定の即時検出
管理者は、BigQuery上で「社外のドメインに対して、『編集者』権限で共有されている、かつ、『機密』ラベルが付与されているファイル」を抽出するクエリを、毎日自動で実行するように設定します。
もし、前日の業務時間中に、ポリシーに違反する危険な共有設定が行われたとしても、翌朝には、このクエリが異常を検知し、セキュリティチームにアラートを通知します。これにより、インシデント発生から24時間以内に、迅速な是正措置(共有設定の解除、関係者へのヒアリングなど)を講じることが可能になります。
2. データ分類ポリシーの「遵守状況モニタリング」
多くの企業では、「個人情報を含むファイルには、必ず『個人情報』ラベルを付与すること」といった、データ分類ポリシーを定めています。
活用例:ラベル付け漏れのデイリーチェック
BigQueryと、DLP(データ損失防止)のスキャン結果などを組み合わせ、「ファイルの内容から個人情報が検出されたにもかかわらず、『個人情報』ラベルが付与されていないファイル」を、毎日リストアップします。
このリストを基に、該当ファイルのオーナーに、ラベル付けを促す通知を自動で送る、といった運用を構築できます。これにより、データ分類の徹底度を、日々、高いレベルで維持することができます。
3. データライフサイクル管理の「精緻化」
「作成から7年が経過した契約書は、自動でアーカイブする」といった、データライフサイクル管理においても、日次レポートは役立ちます。
活用例:アーカイブ・削除対象ファイルの正確なリストアップ
毎日更新されるインベントリデータを基に、「来月、保持期間の7年を迎えるファイル」のリストを、正確に、そして事前に作成できます。これにより、関係者への通知や、最終確認のプロセスを、余裕を持って進めることができます。
利用開始にあたって(管理者向け情報)
この強力な機能を使い始めるための手順と注意点です。
対象エディション:
この高度なデータガバナンス機能は、主に大規模組織やセキュリティ・コンプライアンス要件の高い組織向けのプランで利用可能です。Enterprise Standard, Enterprise Plus
Frontline Plus
Education Standard, Education Plus
Enterprise Essentials Plus
Cloud Identity Premium
設定方法:
この機能はデフォルトで「オフ」になっています。管理者が明示的に有効にする必要があります。
すでに週次エクスポートを設定している場合は、管理コンソールのDriveインベントリエクスポート設定画面に新しく追加された「エクスポートスケジュール」セクションで、「毎日」を選択するだけです。
【重要】コストに関する注意点:
この機能を利用するには、エクスポート先となるGoogle Cloudプロジェクトで、課金設定が有効になっている必要があります。BigQueryでのデータの「保存」と「クエリ(分析)」には、その量に応じたコストが発生します。
導入前に、Google Cloudの料金計算ツールなどを使って、 예상されるコストを試算しておくことを、強くお勧めします。
まとめ
今回、オープンベータとして発表された、Google Driveインベントリレポートの「日次エクスポート」機能。
これは、組織のデータガバナンスとセキュリティ運用を、新たな次元へと引き上げる、非常に強力なアップデートです。
週に一度の「点」での監視から、毎日続く「線」での監視へ。この変化は、管理者が、組織のデータ資産に対する可視性とコントロールを、これまでとは比較にならないレベルで手に入れることを意味します。
セキュリティの脅威は、待ってくれません。よりリアルタイムに近いデータに基づいた、プロアクティブなガバナンス体制を構築すること。それこそが、情報化社会における、組織の信頼性と競争力を支える、揺るぎない基盤となるのです。対象エディションをご利用の管理者の皆様は、ぜひ、この新しいデータ活用の可能性を検討してみてはいかがでしょうか。