フリーランスや小規模なチームでプロジェクトを進めていると、日々の勤務時間管理やプロジェクトごとのコスト計算に多くの時間を奪われていませんか。
「Toggl Track」で時間を記録しているものの、月末になると請求書作成のために手作業で集計し直している、という方も多いのではないでしょうか。
その面倒な作業、これからは自動化ツール「n8n」に任せてしまいましょう。
この記事では、多くの人が利用する時間管理ツール「Toggl」と、iPaaS(Integration Platform as a Service)である「n8n」を連携させ、勤務時間の集計からプロジェクトコストの算出までを完全に自動化する方法を、具体的な手順を交えて詳しく解説します。
手作業によるミスをなくし、より正確なデータに基づいたビジネス判断を下すための第一歩を、この記事から始めましょう。
なぜ今、n8nとTogglの連携が注目されるのか?
日々の業務に追われる中で、「時間管理」と「コスト管理」は、事業の健全性を保つ上で非常に重要です。しかし、これらの管理業務は定型的でありながら、手間がかかるのが実情です。ここでは、なぜ手作業での管理に限界があり、n8nとTogglの連携がその解決策として最適なのかを掘り下げていきます。
手作業による時間集計の限界とリスク
Togglのようなツールで時間を記録しても、最終的な集計をスプレッドシートへの手入力や電卓で行っているケースは少なくありません。この手作業には、いくつかの明確な限界とリスクが潜んでいます。
- 時間の浪費: 最も大きな問題は、単純作業に貴重な時間を費やしてしまうことです。プロジェクトごと、クライアントごとに時間を集計し、請求額を計算する作業は、数時間、場合によっては数日かかることもあります。
- ヒューマンエラーの発生: 手作業である以上、入力ミスや計算間違いは避けられません。これが原因で、クライアントへの過少請求や過大請求が発生し、信頼関係を損なうリスクにつながります。
- リアルタイム性の欠如: 月末にまとめて集計するスタイルでは、プロジェクトの進捗やコスト状況をリアルタイムで把握できません。「気づいた時には予算を大幅に超過していた」といった事態に陥りやすくなります。
これらのリスクは、ビジネスの成長を妨げる要因となり得ます。だからこそ、プロセスの自動化が不可欠なのです。
n8nが自動化の「最後のピース」を埋める
Togglは優れた時間「記録」ツールですが、その後の「集計・分析・活用」には別の仕組みが必要です。ここで登場するのがn8nです。
n8nは、様々なWebサービスやアプリケーションのAPIを、プログラミングの知識がなくても視覚的なインターフェースでつなぎ合わせることができるツールです。Togglで記録されたデータをn8nが自動で取得し、計算、加工した上で、Google SheetsやSlack、会計ソフトなど、別のツールに受け渡す「ハブ」の役割を果たします。
つまり、Togglが時間の「入り口」だとすれば、n8nはデータを整理し、適切な「出口」へと導くための強力なパイプラインなのです。この連携により、これまで手作業で行っていた一連のプロセスを、完全に自動化されたワークフローへと変えることができます。
実践!n8nでTogglのデータを自動集計する基本ワークフロー
それでは、実際にn8nを使ってTogglの勤務時間を自動集計するワークフローを作成していきましょう。ここでは、特定の期間のタイムエントリーを取得し、プロジェクトごとに集計してGoogle Sheetsに書き出す、という基本的な流れを解説します。(2025年11月時点の情報です)
準備するもの
ワークフロー作成を始める前に、以下の3つを準備してください。
- Togglのアカウント: 時間記録の元となるデータが必要です。
- TogglのAPIトークン: Togglアカウントのプロフィール設定ページ下部で確認できます。このトークンはn8nがTogglのデータにアクセスするために使用します。
- n8nのアカウント: n8nはクラウド版とセルフホスト版がありますが、すぐに試したい方はクラウド版がおすすめです。公式サイトから無料プランで始めることができます。
- Google Sheets: 集計結果の出力先として使用します。
ステップ1: Togglノードでデータを取得する
まず、n8nのキャンバスにTogglノードを追加します。このノードが、Togglからデータを取得する起点となります。
- Credentialの作成: 初めてTogglノードを使う際は、認証情報(Credential)を作成する必要があります。「Create New」をクリックし、先ほど取得したTogglのAPIトークンを入力して保存します。
- オペレーションの設定:
- Resource: 「Time Entry」を選択します。
- Operation: 「Get All」を選択します。
- Optionsの追加: 「Add Option」から「Start Date」と「End Date」を追加し、データを取得したい期間を指定します。例えば、毎月1日の朝に前月1ヶ月分のデータを取得する、といった設定が可能です。
「Execute Node」を実行して、指定した期間のタイムエントリーが正しく取得できることを確認しましょう。JSON形式でデータが表示されれば成功です。
ステップ2: データを加工・集計する (Codeノード)
次に、取得したデータをプロジェクトごとに集計します。ここでは柔軟な処理が可能な「Code」ノード(JavaScript)を使用します。
Codeノードを追加し、以下の様なロジックのコードを記述します。これは、入力されたタイムエントリーの配列をループ処理し、プロジェクト名(`description`)をキーとして、それぞれの合計時間(`duration`)を計算するものです。
ポイント: Toggl APIから返される`duration`は秒単位です。分かりやすく時間単位で集計するために、3600で割る処理を加えておくと良いでしょう。
このステップにより、バラバラだった時間の記録が、プロジェクトごとの合計時間という、意味のあるデータに集約されます。
ステップ3: Google Sheetsに結果を書き込む
最後に、集計したデータをGoogle Sheetsに書き込みます。Google Sheetsノードを追加し、設定を行います。
- Credentialの作成: n8nにGoogleアカウントへのアクセスを許可します。
- オペレーションの設定:
- Resource: 「Sheet」を選択します。
- Operation: 「Append or Update」を選択すると、既存のシートに行を追記したり、条件に合う行を更新したりできます。
- Sheet ID: 書き込みたいGoogle SheetsのURLからIDをコピー&ペーストします。
- Range: 書き込み先のシート名(例: ‘Sheet1’)を指定します。
Codeノードから出力されたデータを、Google Sheetsのどの列にマッピングするかを設定すれば完了です。「プロジェクト名」「合計時間」「集計日」といった列に対応させましょう。これで、Togglで記録した時間が自動でGoogle Sheetsに蓄積されていく仕組みが完成しました。
応用編:プロジェクトコストの自動計算とレポート作成
時間の集計ができるようになったら、次はそのデータを活用してプロジェクトコストを算出し、レポートを自動生成する応用的なワークフローに挑戦してみましょう。これにより、ビジネスの収益性をより正確に可視化できます。
プロジェクトごとの時間単価を管理する
正確なコストを算出するには、プロジェクトごとの時間単価(レート)が必要です。この管理には、Google Sheetsを使うのが便利です。「プロジェクト名」と「時間単価」の2列を持つシンプルなシートを一つ用意しておきましょう。
n8nのワークフロー内で、まずこのGoogle Sheetsから単価リストを読み込みます。そして、Togglから取得した時間データと、この単価リストを「Merge」ノードを使って結合します。Mergeノードでプロジェクト名をキーとして指定することで、各タイムエントリーに時間単価の情報を付与することができます。
コストを算出してレポートを自動生成
時間単価が紐付いたら、コストの計算は簡単です。Codeノードを使い、「合計時間 × 時間単価」を計算する処理を追加します。これで、プロジェクトごとの売上やコストが自動で算出されます。
算出されたデータは、単にスプレッドシートに書き出すだけではもったいありません。例えば、以下のような自動化が考えられます。
- 月次レポートの自動送信: 毎月1日にワークフローを実行(Cronノードを使用)し、前月の各プロジェクトの稼働時間とコストをまとめたレポートを作成。その結果を整形して、自分や関係者にメールやSlackで自動通知する。
- 請求書データの自動作成: クライアントごとに稼働時間を集計し、会計ソフト(freeeやMoney Forwardなど、APIが提供されていれば連携可能)に請求書の下書きを自動で作成する。
独自の視点:予実管理への応用
この自動化をさらに一歩進め、プロアクティブな予実管理に活用することをおすすめします。多くのプロジェクトでは、予算や予定工数があらかじめ決まっています。
そこで、プロジェクトごとの「予算」と「予定工数」を管理するシートを別途用意します。n8nのワークフローで、Togglから集計した実績コストや実績工数をこのシートのデータと比較します。
そして、「IF」ノードなどを使って条件分岐を設定します。例えば、「実績コストが予算の80%に達したら、プロジェクトマネージャーにSlackでアラートを送信する」といったワークフローを組むのです。
これにより、問題が発生してから対処するのではなく、予算超過やスケジュール遅延の兆候を早期に察知し、先手を打つことが可能になります。これは、単なる事後集計から脱却し、データに基づいた能動的なプロジェクトマネジメントを実現するための非常に強力なアプローチです。
n8nをさらに活用するためのヒントと注意点
n8nを使った自動化は非常に強力ですが、安定して運用するためにはいくつかのポイントがあります。最後に、より信頼性の高いワークフローを構築するためのヒントと、セキュリティに関する注意点を解説します。
エラーハンドリングの重要性
APIを利用した連携では、相手側サーバーの一時的な不調や、API仕様の変更など、予期せぬエラーが発生することがあります。ワークフローが途中で失敗してもそれに気づけるように、エラーハンドリングを設定しておくことが重要です。
n8nには「Error Trigger」という専用のノードがあります。これをワークフローに組み込んでおくことで、いずれかのノードでエラーが発生した際に、指定した処理(例: 自分にエラー内容をメールで通知する)を実行させることができます。これにより、自動化の「野良化」を防ぎ、安心して運用を続けることができます。
セキュリティに関する考慮事項
ワークフロー内では、TogglのAPIトークンやGoogleアカウントの認証情報など、機密性の高い情報を扱います。これらの情報が外部に漏れることのないよう、n8nのCredential機能を正しく利用しましょう。
Credentialとして保存された情報は暗号化され、ワークフローの実行時にのみ使用されます。ワークフロー自体を他人と共有しても、Credential情報が直接見られることはありません。特にチームでn8nを利用する場合や、セルフホスト版を外部からアクセス可能なサーバーで運用する際は、セキュリティ設定に細心の注意を払いましょう。
n8nの学習リソースとコミュニティ
n8nは非常に多機能なため、最初は戸惑うこともあるかもしれません。しかし、公式ドキュメントやコミュニティフォーラムが非常に充実しており、多くの疑問はそこで解決できます。また、n8nの基本的な概念から応用的な使い方までを網羅的に解説している当サイトのn8n完全ガイド記事も、ぜひ参考にしてください。体系的な知識を身につけることで、自動化の可能性はさらに広がります。
まとめ
この記事では、n8nとTogglを連携させて、日々の勤務時間管理とプロジェクトコストの集計を自動化する方法を解説しました。手作業で行っていた面倒な集計業務から解放されるだけでなく、以下のような多くのメリットが得られます。
- 時間の創出: 定型業務を自動化し、より創造的で価値の高い仕事に集中できる。
- 正確性の向上: ヒューマンエラーを排除し、データに基づいた正確な請求とコスト管理が実現する。
- リアルタイムな経営判断: プロジェクトの状況をリアルタイムで可視化し、迅速な意思決定をサポートする。
いきなり複雑なワークフローを組む必要はありません。まずはTogglで記録した時間を、毎日自動でGoogle Sheetsに転記する、といった簡単な自動化から始めてみてください。その小さな成功体験が、あなたのビジネスを次のステージへと押し上げる大きな一歩となるはずです。
n8nは、今回紹介した以外にも数百ものアプリケーションと連携が可能です。あなたのビジネスに潜む「面倒」を、n8nで解決できないか探してみてはいかがでしょうか。n8nは無料で始められるプランも用意されていますので、ぜひ公式サイトからその無限の可能性を体験してみてください。