新入社員の受け入れ準備、退職者のアカウント整理…。
企業のIT管理者にとって、従業員の入退社に伴う作業は、毎月のように発生する定型業務でありながら、非常に神経を使う仕事ではないでしょうか。
特に、メーリングリストやアクセス権限グループのメンテナンスは、手作業で行うと更新漏れや設定ミスが発生しがちです。
「このままだと、いつか重大な情報漏洩につながるかもしれない…」そんな不安を抱えていませんか。
もし、その面倒でリスクの高いグループ管理業務を、一度設定するだけで完全に自動化できるとしたらどうでしょう。
本記事で紹介するGoogle Workspaceの「動的グループ」機能は、まさにその夢を実現するソリューションです。
この記事を読めば、手作業によるグループメンテナンスから解放され、より戦略的なIT業務に集中できるようになります。
そもそも動的グループとは?従来のグループ管理との違い
「動的グループ」と聞いても、具体的にどのようなものかイメージが湧かない方もいるかもしれません。まずは、従来のグループ管理(静的グループ)との違いを比較しながら、動的グループの基本的な仕組みとメリットを解説します。
従来の「静的グループ」が抱える課題
これまで一般的に使われてきたGoogleグループは「静的グループ」と呼ばれるものです。これは、管理者が手動でメンバー一人ひとりを選択し、グループに追加・削除する方式です。小規模なチームであれば問題ありませんが、組織が大きくなるにつれて、以下のような課題が顕在化します。
- 膨大な管理工数: 従業員の入退社や部署異動のたびに、管理者が手作業で複数のグループを更新する必要があります。組織変更が頻繁な企業ほど、この負担は雪だるま式に増えていきます。
- 人為的ミスの発生: 手作業に頼る以上、更新漏れや設定ミスは避けられません。「新入社員をメーlingリストに追加し忘れた」「退職者のアクセス権が残ったままだった」といったミスは、業務の非効率化やセキュリティインシデントに直結します。
- 反映のタイムラグ: 管理者が作業を行うまでグループの状態が更新されないため、人事情報と実態にズレが生じます。特に退職者のアクセス権削除が遅れることは、大きなセキュリティリスクとなります。
これらの課題は、多くのIT管理者が「仕方のないこと」として受け入れてきたかもしれません。しかし、動的グループはその常識を覆します。
メンバーが自動で入れ替わる「動的グループ」の仕組み
動的グループは、一言で言えば「ルールに基づいてメンバーが自動的に決まるグループ」です。管理者は「〇〇部のメンバー」「役職がマネージャーのメンバー」といったルール(メンバーシップクエリ)を設定するだけ。あとはGoogle Workspaceが、各ユーザーに登録されている情報(部署、役職、勤務地など)を自動的に参照し、ルールに合致するユーザーをグループのメンバーとして自動的に追加・削除してくれます。
この仕組みがもたらすメリットは計り知れません。
- 管理工数の完全ゼロ化: 一度ルールを設定すれば、あとは完全に自動運用。入退社や異動があっても、管理者が何かをする必要は一切ありません。
- セキュリティとコンプライアンスの強化: 退職や部署異動が発生すると、ユーザー情報が変更された時点で即座にグループから自動的に除外されます。これにより、不要なアクセス権が残存するリスクを根本から排除できます。
- 常に最新かつ正確な状態を維持: 人事情報とグループのメンバーシップが常に同期されるため、人為的なミスがなくなり、グループの正確性が担保されます。
- 迅速な組織変更への対応: 大規模な組織改編があっても、ユーザー情報を更新するだけで、関連するすべてのグループが自動的に再編成されます。
動的グループが利用できるプランは?
この非常に強力な動的グループ機能ですが、利用するには特定のGoogle Workspaceプランが必要です。(2025年12月時点)
動的グループが利用可能な主なプラン:
- Business Plus
- Enterprise (Standard, Plus)
- Education Plus
- Cloud Identity Premium
残念ながら、Business StarterやBusiness Standardでは利用できません。もし自社のプランがわからない場合は、Google管理コンソールの「お支払い」セクションから確認できます。この機会に、より高度な管理機能やセキュリティ機能を備えた上位プランへのアップグレードを検討するのも良いでしょう。
【実践】動的グループの作成手順を3ステップで解説
それでは、実際に動的グループを作成する手順を見ていきましょう。ここでは、IT管理者になったつもりで、具体的な画面操作をイメージしながら読み進めてみてください。手順は大きく分けて3つのステップです。
ステップ1: Google管理コンソールでの準備
まず、Google管理コンソールにログインします。動的グループを作成・管理するには、「グループ管理者」または「特権管理者」の権限が必要です。権限がない場合は、組織の特権管理者に依頼してください。
- Google管理コンソール(admin.google.com)にログインします。
- 左側のメニューから [ディレクトリ] > [グループ] を選択します。
このグループ一覧画面が、すべてのグループ管理の起点となります。
ステップ2: 動的グループの作成と基本設定
次に、新しいグループを作成し、種類を「動的」に設定します。
- グループ一覧画面の上部にある「グループを作成」ボタンをクリックします。
- グループの詳細を入力する画面が表示されます。
- 名前: グループの目的がわかる名前を入力します。(例: 全社アナウンス、営業部メーリングリスト)
- グループのメールアドレス: メーリングリストとして使うメールアドレスを設定します。
- 説明: グループの役割などを記載しておくと、後から管理しやすくなります。
- メンバーの種類を選択する項目で、「動的」を選択します。これを忘れると通常の静的グループになってしまうので注意してください。
- 「次へ」をクリックして、アクセス設定などを任意で調整し、最後に「グループを作成」をクリックすれば、グループの器が完成です。
ステップ3: メンバーシップクエリの構築(ここが最重要!)
ここが動的グループの心臓部です。どのようなルールでメンバーを自動判定するかを「メンバーシップクエリ」という形式で定義します。
グループ作成後、そのグループの詳細画面に「動的クエリ」というセクションが表示されます。「メンバーシップの条件を追加」または「編集」をクリックして、クエリエディタを開きます。
クエリは「属性」「演算子」「値」の3つの要素で構成されます。
簡単なクエリの例:
- 例1: 「営業部」の全従業員をメンバーにする
- 属性:
組織部門 - 演算子:
次と等しい(=) - 値:
/営業部 - クエリ構文:
user.org_unit_path == '/営業部'
- 属性:
- 例2: 役職が「マネージャー」の全従業員をメンバーにする
- 属性:
役職 - 演算子:
次と等しい(=) - 値:
マネージャー - クエリ構文:
user.job_title == 'マネージャー'
- 属性:
複数の条件を組み合わせることも可能です。
- 例3: 「営業部」かつ役職が「マネージャー」の従業員条件ビルダーで2つの条件を作成し、AND(かつ)で結合します。
- クエリ構文:
user.org_unit_path == '/営業部' && user.job_title == 'マネージャー'
- クエリ構文:
独自の視点: カスタム属性の活用
標準で用意されている「部署」や「役職」だけでなく、「カスタム属性」を使うと、さらに柔軟なグループ分けが可能になります。例えば、「勤務地」「プロジェクト名」「雇用形態(正社員/契約社員)」といった独自の属性をユーザー情報に追加し、それをクエリの条件に利用できます。これにより、組織の現実に即した、よりきめ細やかな自動化が実現します。
クエリを作成したら、必ず「プレビュー」機能を使って、意図した通りのメンバーが抽出されるかを確認しましょう。問題がなければ保存して完了です。これで、ユーザー情報が変更されるたびに、このグループのメンバーは自動的に更新され続けます。
すぐに使える!動的グループの実践的な活用シナリオ5選
動的グループの可能性は、単なるメーリングリストの自動化にとどまりません。ここでは、あなたの会社でもすぐに役立つ、より実践的な活用シナリオを5つ紹介します。
シナリオ1: 退職者を含まない「全社アナウンス」グループ
最も基本的かつ効果的な活用法です。「休職中」や「退職済み」のユーザーを除いた、すべてのアクティブな従業員を対象とするグループを作成します。これにより、重要な全社連絡が、関係のないユーザーに届くのを防ぎます。
- クエリのヒント:
user.archived == false(アーカイブされていないユーザー) のような条件を使います。組織部門のトップ階層を指定する方法も有効です。
シナリオ2: 部署・チーム・拠点ごとの情報共有グループ
これは動的グループの典型的な使い方です。「営業部」「開発部」「大阪支社」など、組織構造に基づいたグループを自動で作成・管理します。部署ごとのメーリングリストやGoogle Chatのスペースへのメンバー追加を自動化できます。
- クエリのヒント:
user.org_unit_pathや、カスタム属性で定義した勤務地 (user.locations)などを利用します。
シナリオ3: プロジェクト単位のアクセス権限管理グループ
これは一歩進んだ、非常に強力な活用法です。従業員のカスタム属性に「参加プロジェクト」という項目を追加し、「Project-Alpha」や「Project-Beta」といった値を設定します。そして、「Project-Alphaのメンバー」という動的グループを作成します。
この動的グループに対して、Google Driveのプロジェクトフォルダや共有ドライブ、Googleサイトへのアクセス権限を付与します。こうすることで、プロジェクトに新しいメンバーが加わったり、メンバーが抜けたりした際に、アクセス権限の付与・剥奪が完全に自動化されます。これはセキュリティ管理上、絶大な効果を発揮します。
- クエリのヒント:
user.custom_schemas.Projects.project_name.contains('Project-Alpha')のように、カスタム属性とcontains演算子を組み合わせます。
シナリオ4: 役職別の機密情報共有グループ
「部長以上」「マネージャー職」といった役職に基づいたグループを作成します。経営層向けのレポートや、管理職向けの通達など、特定の役職にのみ共有したい情報を扱う際に便利です。
人事異動で昇格・降格があった場合も、ユーザーの役職情報を変更するだけで、自動的に正しい情報共有範囲が維持されます。
- クエリのヒント:
user.job_title == '部長' || user.job_title == '役員'のように、OR(または)演算子で複数の役職を組み合わせます。
シナリオ5: グループベースでのライセンス自動割り当て
これは最先端の活用シナリオです。Google Workspaceには、グループのメンバーに対して特定のライセンス(例: Google Voice, AppSheet, Google Cloudの特定サービス)を自動的に割り当てる機能があります。
例えば、「開発部」の動的グループを作成し、そのグループに対して「AppSheetライセンス」を自動割り当てする設定をしておきます。すると、新しく開発部に配属されたメンバーには、管理者が何もしなくても自動でAppSheetのライセンスが付与されます。逆に、開発部から異動したメンバーからはライセンスが自動的に解除されるため、不要なライセンスコストの削減にも繋がります。
- ポイント: 動的グループとライセンス管理機能を組み合わせることで、IT資産管理の自動化も実現できます。
まとめ: 「手作業」から脱却し、戦略的なIT管理へ
今回は、Google Workspaceの動的グループ機能について、その仕組みから具体的な設定方法、実践的な活用シナリオまでを詳しく解説しました。
動的グループを導入することで得られる最大の価値は、単なる「時短」ではありません。それは、人為的ミスとセキュリティリスクを根本から排除し、IT管理者が本来注力すべき、より創造的で戦略的な業務に時間を使えるようにすることです。面倒なグループ管理は、これからは賢く自動化する時代です。
もしあなたの組織が、動的グループを利用できるBusiness Plus以上のプランをまだ導入していないのであれば、この機会にアップグレードを検討してみてはいかがでしょうか。管理工数の削減やセキュリティ強化といったメリットは、月々の追加コストを上回る価値をもたらすはずです。
Google Workspaceの新規導入やプランのアップグレードを検討する際は、割引が適用されるプロモーションコードを利用するのが最もお得です。最新のプロモーションコードの入手方法や、各プランのより詳細な機能比較については、以下の記事で網羅的に解説していますので、ぜひ参考にしてください。
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まずは一つの部署や小規模なチームからでも、動的グループの導入を試し、その効果を実感してみてください。あなたの組織の生産性は、きっと飛躍的に向上するでしょう。
