「パート収入だけじゃ物足りない…」
「自分のスキルを活かして、もう少し収入を増やしたい」
そんな思いから、パートやアルバイトの傍ら、個人事業主として副業を始める方が増えています。
Webライターやデザイナー、ハンドメイド作家など、働き方が多様化する現代ならではの選択肢ですよね。
しかし、新しい一歩を踏み出すとき、多くの人の頭をよぎるのが「税金」の問題。
特に「確定申告」という言葉には、なんだか難しくて面倒なイメージがありませんか?
「一体いくら稼いだら確定申告が必要なの?」
「もし申告しなかったら、どうなるんだろう…」
この記事では、そんなあなたの不安を解消します。
パート・アルバイトと個人事業主を掛け持ちする場合の、確定申告が必要になる明確なボーダーラインから、知っておかないと損する節税の知識まで、分かりやすく解説していきます。
正しい知識を身につけて、安心して新しいキャリアをスタートさせましょう。
そもそも確定申告とは?パート・アルバイトとの関係性
まず、確定申告の基本と、パート・アルバイトの収入(給与所得)と個人事業主の収入(事業所得)の違いについて理解を深めましょう。この違いを把握することが、ボーダーラインを理解するための第一歩です。
確定申告の基本と2つの「所得」
確定申告とは、1月1日から12月31日までの1年間に得たすべての「所得」を計算し、それに対する所得税額を算出して国(税務署)に報告・納税するための一連の手続きのことです。
ここで重要なのが「所得」という言葉。所得にはいくつかの種類があり、今回のケースで関係するのは以下の2つです。
- 給与所得:パートやアルバイト先から給料として受け取る収入から、給与所得控除を差し引いたもの。
- 事業所得:個人事業主として得た収入(売上)から、必要経費を差し引いたもの。
この2つの所得の扱いの違いが、確定申告の要不要を分けるポイントになります。
パート・アルバイトは原則「年末調整」で完結する
パートやアルバイトとして一つの勤務先から給料をもらっている場合、通常は自分で確定申告をする必要はありません。
なぜなら、勤務先の会社が「年末調整」という手続きを行ってくれるからです。
年末調整とは、会社が従業員に代わって、毎月の給料から天引きしていた所得税(源泉徴収税)の過不足を年末に精算してくれる制度です。生命保険料控除や扶養控除などの申告も、年末調整で行うことができます。これにより、ほとんどの給与所得者は税金の計算と納税が完結するため、確定申告の手間が省けているのです。
個人事業主の「事業所得」は自己申告が原則
一方、個人事業主として得た収入は「事業所得」に分類されます。事業所得には、年末調整のような制度はありません。
そのため、自分で一年間の収入と経費を正確に計算し、所得を算出して確定申告を行うのが原則となります。
「え、じゃあ1円でも稼いだら確定申告が必要なの?」と不安に思うかもしれませんが、ご安心ください。パートやアルバイトで年末調整を受けている方には、確定申告が不要になる特例(ボーダーライン)が設けられています。次の章で、その最重要ポイントを詳しく見ていきましょう。
【最重要】確定申告が必要になる「20万円の壁」とは?
ここが今回の記事で最も重要なポイントです。パート・アルバイトと個人事業主を掛け持ちしている方が、確定申告をすべきか否かを判断するボーダーライン、通称「20万円の壁」について解説します。
ボーダーラインは「事業所得」で年間20万円
結論から言うと、パートやアルバイト先で年末調整を受けている方の場合、個人事業主としての「所得」が年間20万円を超えたら確定申告が必要になります。
これは所得税法で定められているルールです。
ここで絶対に間違えてはいけないのが、20万円の基準は「収入(売上)」ではなく「所得」であるという点です。
事業所得 = 総収入金額 – 必要経費
例えば、Webライターとして年間の売上が30万円あっても、取材のための交通費や資料代、PC購入費などの経費が15万円かかっていれば、事業所得は「15万円」となり、20万円の壁は超えていません。この場合、原則として確定申告は不要です。
具体例で見る確定申告の要不要(2025年12月時点)
具体的なケースで考えてみましょう。
-
- ケース1:WebライターAさん
パート収入:103万円(年末調整済み)
ライターとしての年間売上:40万円
ライターとしての年間経費(PC代、通信費など):15万円
→ 事業所得:40万円 – 15万円 = 25万円
判定:事業所得が20万円を超えるため、確定申告が必要です。
- ケース1:WebライターAさん
- ケース2:ハンドメイド作家Bさん
アルバイト収入:120万円(年末調整済み)
ハンドメイド作品の年間売上:28万円
年間経費(材料費、出店料、送料など):10万円
→ 事業所得:28万円 – 10万円 = 18万円
判定:事業所得が20万円以下のため、所得税の確定申告は原則不要です。
注意点:住民税の申告は必要
所得税の確定申告が不要な場合(所得20万円以下)でも、住民税の申告は別途必要になる点に注意が必要です。確定申告を行えば、その情報が自動的に市区町村に送られるため住民税の申告も兼ねることができますが、確定申告をしない場合は、お住まいの市区町村の役所で住民税の申告手続きを忘れずに行いましょう。
所得20万円以下でも確定申告をした方が「得」なケース
所得が20万円以下なら何もしなくて良い、と考えるのは早計です。実は、あえて確定申告をした方が金銭的に得をするケースがあります。
- 源泉徴収された報酬がある場合
取引先によっては、報酬から所得税(復興特別所得税 포함)が10.21%天引き(源泉徴収)されていることがあります。年間の所得が20万円以下で本来納税義務がない場合、確定申告を行うことで、この天引きされた税金が全額または一部還付される(戻ってくる)可能性があります。 - 事業が赤字になった場合
個人事業が赤字(所得がマイナス)になった場合、確定申告(青色申告)を行うことで、その赤字を給与所得と相殺(損益通算)できます。その結果、給与から天引きされていた所得税の一部が還付されることがあります。 - 医療費控除や寄附金控除(ふるさと納税)を受けたい場合
年間の医療費がたくさんかかった場合や、ふるさと納税(ワンストップ特例制度を利用しない場合)をした場合などは、確定申告で控除を申請することで税金の負担を軽くできます。
このように、20万円というボーダーラインは絶対的なものではなく、ご自身の状況によっては申告した方が有利になることも覚えておきましょう。
確定申告をしないとどうなる?賢く節税する準備とは
「所得が20万円を超えているのに申告しなかったら…?」そのリスクと、どうせ申告するなら賢く節税するための準備について解説します。個人事業主としての活動を本格化させるなら、ここは必ず押さえておきたいポイントです。
「バレない」は通用しない!無申告の重いペナルティ
「少しくらいならバレないだろう」という甘い考えは非常に危険です。税務署は、私たちが思う以上に様々な方法で個人のお金の動きを把握しています。
例えば、取引先の企業が税務署に提出する「支払調書」には、「誰に」「いくら」支払ったかが記録されています。このような情報を基に、無申告が発覚するケースは少なくありません。
もし確定申告が必要にもかかわらず申告しなかった場合、以下のようなペナルティが課される可能性があります。
- 無申告加算税:本来納めるべきだった税額に加え、追加で課される税金。
- 延滞税:法定納期限の翌日から納付する日までの日数に応じて課される、利息に相当する税金。
悪質なケースと判断されれば、さらに重い重加算税が課されることもあります。余計な税金を払うことにならないよう、ルールに従って正しく申告することが何よりも大切です۔
節税の第一歩は「開業届」と「青色申告」から
個人事業主として活動を始め、継続的に収入を得る見込みが立ったなら、まずは税務署に「開業届」を提出しましょう。これは、事業を開始したことを公的に知らせるための書類です。
「なんだか難しそう…」と感じるかもしれませんが、実はこの手続きが、大きな節税メリットを得るための入り口になります。個人事業主としての第一歩である開業届の提出は、意外と簡単です。詳しくは、無料のクラウドサービスを使って開業準備をスムーズに進める方法を解説した「【開業準備ガイド】個人事業主になるには?」の記事で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
そして、開業届と同時に提出を検討したいのが「青色申告承認申請書」です。これを提出することで、確定申告時に「青色申告」という方式を選択できるようになります。青色申告には、主に以下のような強力な節税メリットがあります。
- 最大65万円の青色申告特別控除:一定の要件を満たすことで、所得から最大65万円を控除できます。所得が減るため、所得税や住民税、国民健康保険料の節約に繋がります。
- 赤字の3年間繰越(純損失の繰越控除):事業の赤字を翌年以降3年間にわたって繰り越し、将来の黒字と相殺できます。
- 家族への給与を経費にできる(青色事業専従者給与):一定の条件下で、生計を共にする家族に支払った給与を経費として計上できます。
これらのメリットを享受するには、原則として事業を開始した日から2ヶ月以内、または青色申告をしたい年の3月15日までに申請書を提出する必要があります。節税効果が非常に高いため、個人事業を始めるなら必ず検討しましょう。
まとめ:ボーダーラインを理解し、賢い第一歩を踏み出そう
今回は、パート・アルバイトと個人事業主を掛け持ちする際の確定申告のボーダーラインについて解説しました。
最後に、重要なポイントをもう一度おさらいしましょう。
- パート先で年末調整を受けている場合、個人事業主としての「所得」が年間20万円を超えたら確定申告が必要。
- 基準は売上ではなく、収入から経費を差し引いた「所得」である点に注意。
- 所得20万円以下でも、源泉徴収された税金の還付を受けたい場合や、事業が赤字の場合は申告した方が得なことがある。
- 大きな節税メリットがある「青色申告」を利用するためには、事前の「開業届」と「青色申告承認申請書」の提出が不可欠。
副業が軌道に乗り始め、これから本格的に活動していきたいと考えているなら、まずは個人事業主としてのスタートラインである「開業届」の提出から始めてみませんか?
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