「またパスワードを忘れてしまった…」
「このサイトのパスワードは何だっけ?」
多くのビジネスパーソンが、日々増え続けるパスワードの管理に頭を悩ませています。
複雑なパスワードを設定しても、使い回してしまえばセキュリティリスクは高まり、かといってすべてを記憶するのは不可能です。
この根深いパスワード問題を根本から解決する新技術、それが「パスキー(Passkey)」です。
そして、多くの企業が利用するGoogle Workspaceでも、このパスキーによるログインが標準機能としてサポートされるようになりました。
本記事では、2025年11月時点の最新情報に基づき、Google Workspaceにパスキーを導入するメリットから具体的な設定方法、そして導入を成功させるためのポイントまで、分かりやすく徹底解説します。
パスワードの呪縛から解放され、より安全で快適な業務環境を手に入れましょう。
そもそもパスキー(Passkey)とは?パスワード認証との違いを解説
パスキーという言葉を耳にする機会が増えましたが、その仕組みやパスワードとの違いを正確に理解している方はまだ少ないかもしれません。パスキーは、単なるパスワードの代替品ではなく、認証のあり方を根本から変える革新的な技術です。このセクションでは、パスキーの基本から、なぜパスワードよりも安全と言えるのかを解説します。
パスキーの仕組み:FIDO2標準に基づく公開鍵暗号方式
パスキーの核心は、「公開鍵暗号方式」と「FIDO2(Fast Identity Online 2)」という国際技術標準にあります。少し専門的に聞こえますが、仕組みは以下の通りです。
- キーペアの生成: ユーザーがWebサイトやアプリ(この場合はGoogle Workspace)でパスキーを作成すると、デバイス内(スマートフォンやPC)で「秘密鍵」と「公開鍵」という一対のキーが生成されます。
- 鍵の保管場所: 非常に重要な点として、ユーザーの本人確認に使われる「秘密鍵」はデバイス内に安全に保管され、決して外部に出ることはありません。一方、「公開鍵」だけがサービスのサーバー(Googleのサーバー)に登録されます。
- 認証のプロセス: ログイン時、サーバーはユーザーのデバイスに「チャレンジ」と呼ばれる署名要求を送ります。デバイスは、ユーザーに生体認証(指紋や顔)やPINコードを求め、本人確認が成功すると、デバイス内の「秘密鍵」でチャレンジに署名してサーバーに送り返します。サーバーは、事前に登録された「公開鍵」を使ってその署名を検証し、正しければログインを許可します。
この仕組みにより、サーバー側はパスワードという「秘密の情報」を保管する必要がなくなり、万が一サーバーが攻撃されても、ユーザーの認証情報が漏洩するリスクが劇的に低下します。
パスワード認証が抱える根本的な問題点
一方、従来のパスワード認証には、以下のような避けがたい問題が存在します。
- 漏洩リスク: サービス提供側のサーバーにパスワード(あるいはハッシュ化されたパスワード)が保存されているため、サーバーへのサイバー攻撃で大規模な漏洩が発生する可能性があります。
- 使い回しによる被害拡大: 多くのユーザーが複数のサービスで同じパスワードを使い回しています。そのため、一つのサービスでパスワードが漏洩すると、他のサービスでも不正ログインされる「パスワードリスト攻撃」の被害に遭う危険性が高まります。
- フィッシング攻撃への脆弱性: 偽のログインページにユーザーを誘導し、パスワードを盗み取るフィッシング詐欺は後を絶ちません。人間が目で見て本物かどうかを判断するには限界があります。
パスキーが解決するセキュリティ課題
パスキーは、これらのパスワードの問題点を根本から解決します。
- 耐フィッシング性: パスキーは生成されたWebサイトのドメインと紐付いています。そのため、たとえユーザーが偽サイトにアクセスしても、ドメインが異なるためデバイス内の秘密鍵が反応せず、認証情報が盗まれることはありません。
- サーバーからの漏洩防止: 前述の通り、サーバーには公開鍵しか保存されないため、情報漏洩による直接的な被害を防ぎます。
- 使い回しの排除: パスキーはサービスごとに一意のキーペアを生成するため、パスワードの使い回しという概念自体がなくなります。
このように、パスキーは技術的にフィッシングやサーバー攻撃に強い構造を持っており、パスワードに比べて格段に安全な認証方法と言えるのです。
Google Workspaceにパスキーを導入する4つの主要なメリット
Google Workspaceにパスキーを導入することは、単にログイン方法が変わるだけではありません。組織全体のセキュリティレベル、生産性、そして従業員満足度にまで好影響を与える、経営的にも価値のある投資です。ここでは、導入によって得られる4つの具体的なメリットを深掘りします。
メリット1: 鉄壁のセキュリティ強化
最大のメリットは、言うまでもなくセキュリティの飛躍的な向上です。パスキーは、現代のサイバー攻撃で最も一般的かつ効果的とされるフィッシング攻撃やパスワードリスト攻撃を原理的に無効化します。
従来の多要素認証(MFA)では、SMSや認証アプリで送られてくるワンタイムパスワード(OTP)を入力しますが、高度なフィッシング攻撃では、偽サイトでパスワードとOTPの両方を同時に盗み取り、リアルタイムで正規サイトにログインする「AiTM(Adversary-in-the-Middle)攻撃」という手法が存在します。しかし、パスキーはデバイスとウェブサイトが直接暗号技術でやり取りするため、このような中間者攻撃も防ぐことができます。これは、企業の重要な情報資産を守る上で決定的な違いとなります。Google Workspaceには機密情報や顧客データが大量に保管されているため、この認証レベルの向上は計り知れない価値を持ちます。
メリット2: 圧倒的な業務効率の向上
セキュリティとトレードオフになりがちなのが利便性ですが、パスキーはこの両立を実現します。従業員は、複雑なパスワードを記憶したり、定期的に変更したりする必要がなくなります。スマートフォンの顔認証や指紋認証、あるいはPCのカメラや指紋リーダーに触れるだけで、瞬時にログインが完了します。
このログイン体験は、従業員の日常業務における小さなストレスを解消し、生産性を向上させます。特に、一日に何度もログイン・ログアウトを繰り返すような業務では、その効果は顕著です。また、情報システム部門にとっても、「パスワードを忘れました」という問い合わせ対応は大きな負担です。パスキーの導入は、パスワードリセットに関連するヘルプデスクの業務を大幅に削減し、管理者がより戦略的なIT業務に集中できる環境を生み出します。
メリット3: 従業員のユーザー体験(UX)向上
優れたユーザー体験(UX)は、従業員の満足度やエンゲージメントを高める重要な要素です。パスキーは、まさにこのUXを劇的に改善します。パスワードという「覚えなければならないもの」から解放されることは、心理的な負担を大きく軽減します。
さらに、パスキーは多くの場合、デバイス間で同期されます(例: AppleのiCloudキーチェーンやGoogleパスワードマネージャー)。これにより、会社のPCで作成したパスキーを使って、私用のスマートフォンからでも安全かつシームレスにGoogle Workspaceにアクセスできるようになります。場所やデバイスに縛られない柔軟な働き方を推進する上で、このストレスフリーな認証体験は強力な後押しとなるでしょう。
メリット4: IT管理コストの削減
セキュリティインシデントが発生した場合の対応コストは甚大です。調査、復旧、顧客への補償、そしてブランドイメージの毀損など、その影響は計り知れません。パスキーを導入し、不正アクセスのリスクを根本から低減することは、これらの潜在的なインシデント対応コストを大幅に削減することに繋がります。
また、前述のヘルプデスク業務の削減は、人件費の直接的な削減効果ももたらします。さらに、複雑なパスワードポリシーの維持や、パスワード管理専用ツールのライセンス費用などが不要になる可能性もあり、長期的に見ればIT関連のTCO(総所有コスト)削減に貢献します。セキュリティを強化しながらコストも削減できる、一石二鳥の効果が期待できるのです。
【実践ガイド】Google Workspaceでパスキーを設定する手順
パスキーのメリットを理解したところで、次はいよいよ実践です。ここでは、Google Workspaceでパスキーを有効化し、実際にユーザーが利用を開始するまでの手順を、管理者向けとユーザー向けに分けて具体的に解説します。手順自体は非常にシンプルなので、ぜひこのガイドを参考に設定を進めてみてください。
管理者向け: 管理コンソールでの有効化設定
まず、組織全体でパスキーを利用できるように、Google Workspaceの管理者が設定を有効にする必要があります。以下の手順で進めます。
- Google管理コンソールにログイン: 管理者アカウントで https://admin.google.com にアクセスします。
- メニューからセキュリティ設定へ移動: 左側のメニューから [セキュリティ] > [認証] > [パスキー] を選択します。
- パスキーの有効化: 「パスキーを有効にする」という項目が表示されます。スイッチをクリックして「オン」に設定します。
- 適用範囲の選択(オプション): 設定をすべてのユーザーに適用するか、特定の組織部門やグループにのみ適用するかを選択できます。初めて導入する場合は、IT部門などの小規模なグループでテスト運用を開始し、段階的に全社へ展開するのがおすすめです。
- 保存: 設定が完了したら、[保存] ボタンをクリックします。
これで、管理コンソールでの設定は完了です。この設定変更が組織全体に反映されるまで、最大で24時間かかる場合がありますが、通常は数分から1時間程度で利用可能になります。
ユーザー向け: パスキーの作成と登録方法
管理者がパスキーを有効にすると、各ユーザーは自分のアカウントにパスキーを登録できるようになります。ユーザーは以下の手順でパスキーを作成します。
- Googleアカウント管理画面にアクセス: ブラウザで Googleアカウントのセキュリティページにアクセスし、ログインします。
- パスキー設定へ移動: 「Google へのログイン方法」セクションの中にある [パスキー] をクリックします。
- パスキーの作成: [パスキーを作成] ボタンをクリックします。
- 本人確認: 画面の指示に従い、デバイスの本人確認機能(Windows HelloのPIN、MacのTouch IDやパスワード、スマートフォンの顔・指紋認証など)を使って本人確認を行います。
- 作成完了: 本人確認が成功すると、パスキーが作成され、Googleアカウントに登録されます。
次回以降、Googleのログイン画面でこのアカウントを選択すると、パスワード入力の代わりに、登録したデバイスでの生体認証やPINが求められるようになります。これにより、迅速かつ安全なログインが可能になります。
運用上の注意点とベストプラクティス
パスキーをスムーズに組織へ導入・運用するためには、いくつかの点に注意が必要です。
- 複数デバイスでの登録を推奨: 業務で使用するPCだけでなく、業務用スマートフォンなど、複数のデバイスでパスキーを登録しておくことを強く推奨します。これにより、一方のデバイスを紛失したり、故障したりした場合でも、別のデバイスでログインでき、業務が滞るのを防げます。
- デバイス紛失時の対応フローを確立: 従業員がパスキーを登録したデバイスを紛失した場合に備え、管理者が迅速にそのパスキーを無効化し、アカウントを保護するための手順を事前に定めておくことが重要です。
- 移行期間の設定: 全従業員が一斉にパスキーへ移行するのは困難な場合があります。導入初期は、パスワードや他の多要素認証とパスキーを併用できる期間を設け、ユーザーが自分のペースで移行できるようにすると、混乱を避けられます。
- 社内向けマニュアルの準備: 上記のユーザー向け手順や注意点をまとめた、分かりやすい社内マニュアルを作成し、周知することで、導入がスムーズに進み、情報システム部門への問い合わせを減らすことができます。
パスキー導入を成功させるためのポイントと今後の展望
技術的にパスキーを有効化するだけでは、そのメリットを最大限に引き出すことはできません。組織としてパスキーという新しい認証文化を根付かせるための戦略と、その先にある未来を見据える視点が重要になります。このセクションでは、導入を成功に導くための独自の視点と、パスワードレス社会の展望について考察します。
組織内へのスムーズな導入戦略
全社一斉の強制的な導入は、時に反発や混乱を招きます。成功の鍵は、段階的かつ計画的なアプローチです。
- パイロット(試験)運用の実施: まずはIT部門や、新しいテクノロジーに比較的抵抗の少ない小規模なチームを対象にパイロット運用を開始します。ここで実際に運用する中で出てきた課題(例: 特定のブラウザで動作が不安定、マニュアルの分かりにくい部分など)を洗い出し、改善します。このフィードバックが、全社展開時の貴重な資産となります。
- 「アンバサダー」の育成: パイロット運用に参加したメンバーに「パスキー・アンバサダー」となってもらい、各部署で導入を推進する役割を担ってもらうのも効果的です。身近な同僚からのサポートは、公式なマニュアルだけでは伝わらない安心感を与えます。
- メリットの丁寧な伝達: なぜパスキーを導入するのか、その背景とメリットを従業員に丁寧に説明する場を設けましょう。「セキュリティ強化のため」という管理者側の論理だけでなく、「皆さんのパスワード管理の手間がなくなり、ログインが楽になります」といった、従業員一人ひとりにとっての具体的なメリットを強調することが、自発的な利用を促す上で不可欠です。
パスキー以外のセキュリティ機能との連携
パスキーは非常に強力な認証手段ですが、それだけでセキュリティが万全になるわけではありません。Google Workspaceが提供する他の高度なセキュリティ機能と組み合わせることで、ゼロトラスト・セキュリティモデルをより強固なものにできます。
例えば、Business PlusやEnterpriseプランで利用可能な「コンテキストアウェアアクセス」と連携させることで、「パスキーで認証した上で、会社の管理下にあるデバイスから、かつ日本国内からのアクセスである場合にのみ、機密情報が保管されたGoogleドライブへのアクセスを許可する」といった、よりきめ細やかなアクセスポリシーを構築できます。パスキーを「誰が」アクセスしているかの強力な証明とし、他の機能を「どこから」「どのデバイスで」といったコンテキスト(状況)の制御に使うことで、セキュリティの層をさらに厚くすることができるのです。
パスワードレス社会の未来
パスキーの普及は、単なる一企業のセキュリティ対策に留まりません。これは、インターネット全体の「パスワードレス化」という大きな潮流の一部です。Apple、Google、Microsoftといったプラットフォーマーが足並みを揃えて推進していることからも、その流れは加速していくでしょう。
将来的には、あらゆるサービスへのログインが、生体認証を起点とするパスキーで行われるのが当たり前になるかもしれません。そうなれば、私たちはパスワードの記憶や管理という不毛な作業から完全に解放されます。これは、働き方だけでなく、私たちのデジタルライフ全体の質を向上させる大きな変革です。Google Workspaceへのパスキー導入は、その未来を先取りし、組織のデジタル成熟度を高めるための重要な一歩と言えるでしょう。
まとめ:パスワードからの解放で、安全と効率を手に入れる
本記事では、Google Workspaceにおけるパスキー導入のメリット、設定方法、そして成功のためのポイントを解説しました。
パスキーは、パスワードが抱える漏洩やフィッシングのリスクを根本から断ち切り、組織のセキュリティを飛躍的に向上させます。同時に、生体認証などによる瞬時のログインは、従業員の日々の業務効率と満足度を高めることにも直結します。
もはやパスワードに依存するセキュリティ体制は時代遅れになりつつあります。この機会に、ぜひパスキーの導入を具体的に検討し、安全で生産性の高い、次世代のワークプレイス環境を実現してください。
また、Google Workspaceのセキュリティ機能を最大限に活用するには、自社の規模や求めるセキュリティレベルに合ったプランを選択することが不可欠です。例えば、より高度なデバイス管理やデータ保持機能が必要な場合は、Business Standard以上のプランが推奨されます。
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