個人事業主としてのキャリアをスタートさせる第一歩、それが「開業届」の提出です。
しかし、いざ書類を前にすると「これはどう書けばいいんだろう?」と手が止まってしまう項目がいくつかありますよね。
特に多くの人が悩むのが、「給与等の支払の状況」という欄ではないでしょうか。
「まだ従業員はいないし、雇う予定もない…」という場合、どのように記入するのが正解なのか、迷ってしまいますよね。
この記事では、そんなあなたの疑問を解消します。
従業員がいない、または雇う予定がない場合の「給与等の支払の状況」欄の正しい書き方を、具体的な記入例とともに分かりやすく解説します。
さらに、なぜそのように書くのかという理由や、もし間違えてしまった場合の対処法、そして多くの人が気になる青色申告との関連まで、深く掘り下げていきます。
この記事を読み終える頃には、開業届への不安はすっかりなくなり、自信を持って次の一歩を踏み出せるようになっているはずです。
そもそも「給与等の支払の状況」欄とは?なぜ記入が必要なのか
まず、なぜ開業届にこのような欄が存在するのか、その目的から理解を深めましょう。この欄には、税務署があなたの事業状況を把握するための重要な役割が2つあります。
この欄が持つ2つの重要な意味
一つ目の役割は、「給与支払事務所等の開設届出書」としての機能を兼ねていることです。本来、従業員を雇い給与を支払うことになった事業主は、「給与支払事務所等の開設届出書」という書類を別途税務署に提出する必要があります。しかし、開業と同時に給与の支払いが見込まれる場合、この開業届の欄に記入することで、その届出を省略できる仕組みになっているのです。
二つ目の役割は、あなたが「源泉徴収義務者」になるかどうかを税務署が判断するための情報提供です。従業員を雇って給与を支払うと、事業主には給与から所得税を天引き(源泉徴収)し、国に納める義務が発生します。この義務を持つ人を「源泉徴収義務者」と呼びます。この欄の記入内容によって、税務署はあなたに源泉徴収の義務があるかどうかを初期段階で把握するのです。
源泉所得税の基本を理解しよう
ここで、少しだけ「源泉所得税」についておさらいしておきましょう。源泉所得税とは、給与や報酬などを支払う側が、支払額からあらかじめ所得税分を差し引いて、受け取る本人に代わって国に納税する制度です。会社員の方が給与から所得税を天引きされているのが、まさにこれです。
個人事業主も、従業員を雇用すれば給与支払者となり、原則としてこの源泉徴収義務を負うことになります。開業届の「給与等の支払の状況」欄は、「私の事業所は、これから源泉徴収の義務が発生する事業所になりますか?」という問いに対する、あなたの最初の意思表示とも言えるのです。
従業員の定義とは?家族や外注先は含まれる?
では、ここでいう「従業員」とは誰を指すのでしょうか。これは非常に重要なポイントです。
税法上の従業員とは、一般的にあなたと「雇用契約」を結んでいる人を指します。パートやアルバイトも含まれます。
一方で、よく混同されがちなのが「家族」と「外注先」です。
- 家族従業員(専従者): 生計を同一にする配偶者や親族に給与を支払う場合、それは「給与」に該当します。特に青色申告で家族への給与を経費にする「青色事業専従者給与」を適用する場合、その家族は従業員数に含めて考える必要があります。
- 外注先(業務委託): Webデザイナーやライターなど、外部のフリーランスや法人に業務を依頼し、その対価として「報酬」を支払う場合、彼らは従業員ではありません。雇用契約ではなく業務委託契約に基づいているため、この欄の従業員数にはカウントしません。ただし、支払う報酬の内容によっては源泉徴収が必要なケースがあるため、その点は別途注意が必要です。
このように、誰にどのような形でお金を支払うかによって、この欄の書き方は変わってきます。まずは「自分は開業時点で雇用契約を結ぶ従業員がいるか?」という視点で判断することが大切です。
(2025年12月時点の情報)
【結論】従業員なし・予定なしの場合の具体的な書き方
それでは、本題である「従業員なし・雇う予定もなし」の場合の具体的な書き方を見ていきましょう。結論から言うと、記入は非常にシンプルです。
記入例で一目瞭然!「給与等の支払の状況」欄の正解
開業届の「給与等の支払の状況」欄には、いくつかの項目があります。従業員がいない場合は、以下のように記入してください。
- 従業員数:
- 計: 「0」人と記入します。
- (うち家族): 「0」人と記入します。
- 給与の定め方: 空欄のままで構いません。もし何か記入したい場合は「なし」と書いても問題ありません。
- 税額の有無: 「無」にチェックを入れます。
たったこれだけです。迷う必要はありません。一人で事業を始めるほとんどのフリーランスや個人事業主の方は、この書き方でOKです。
なぜ「無」や「0人」で良いのか?その根拠を解説
なぜこの記入で問題ないのか、理由を理解しておくとさらに安心です。
前述の通り、この欄は「給与支払事務所」に該当するかどうかを申告するためのものです。従業員がおらず、給与の支払いが一切ないのですから、あなたの事業所は「給与支払事務所」には該当しません。したがって、従業員数は「0人」となります。
そして、給与の支払いがないということは、給与から天引きすべき源泉所得税も発生しません。つまり「徴収すべき税額がない」ため、「税額の有無」は「無」にチェックするのが論理的に正しいのです。
「もし将来、人を雇いたくなったらどうするの?」と不安に思うかもしれませんが、心配は無用です。その時は、従業員を雇うことが決まったタイミングで、新たに「給与支払事務所等の開設届出書」を税務署に提出すれば良いだけです。開業時に将来の不確定な予定まで書き込む必要はありません。
「青色申告承認申請書」も一緒に提出する場合の注意点
節税効果の高い「青色申告」を選択するために、開業届と「所得税の青色申告承認申請書」を同時に提出する方は多いでしょう。実は、この青色申告承認申請書にも、従業員に関連する項目があります。
申請書の中ほどに「事業専従者」の有無や人数を記入する欄があります。ここも開業届と考え方は同じです。
生計を同一にする家族を「青色事業専従者」として給与を支払い、経費にする予定がなければ、この欄は氏名「なし」、人数「0人」と記入します。開業届と青色申告承認申請書の内容に矛盾がないように、統一しておくことが大切です。
間違えたらどうなる?修正方法とよくある質問
「もし、うっかり間違えて記入して提出してしまったら…」と心配になる方もいるかもしれません。ここでは、万が一の場合の対処法と、多くの人が抱く疑問についてQ&A形式でお答えします。
もし間違えて提出してしまった場合の対処法
結論から言うと、従業員がいないのに「給与の定め方」を書いてしまったり、「税額の有無」を「有」にしてしまったりしても、すぐに大きなペナルティが発生するわけではありませんので、過度に心配する必要はありません。
最も考えられる影響は、税務署があなたを「源泉徴収義務者」だと認識し、源泉所得税の納付書(納期特例分など)を送付してくるケースです。もし納付書が届いたら、慌てずに税務署に電話し、「開業届の記載を間違えてしまったこと、実際には従業員はおらず給与の支払いがないこと」を伝えましょう。職員の方が状況を理解し、適切に対応してくれます。
訂正のためにわざわざ訂正届を提出する必要まではありませんが、気になる場合は所轄の税務署に電話で相談し、指示を仰ぐのが最も確実な方法です。
Q&A形式で疑問を解消
Q1: 「今はいないけど、数ヶ月後には人を雇うかもしれない…」という場合はどう書く?
A1: 開業届は、あくまで開業日時点の状況を記入するのが原則です。たとえ数ヶ月後に雇う計画があったとしても、開業時点で雇用契約を結んでいなければ、「従業員なし」として「0人」「無」と記入してください。そして、実際に人を雇うことが決まり、最初の給与を支払う前日までに「給与支払事務所等の開設届出書」を提出すれば全く問題ありません。
Q2: 妻に少しだけ事業を手伝ってもらう予定です。これは従業員になりますか?
A2: これは少し複雑なケースです。生計を同一にする配偶者や親族への支払いは、原則として「事業の経費」には認められません。もし、奥様に給与を支払ってそれを経費として計上したい場合は、「青色申告」を選択し、かつ「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出する必要があります。この届出を提出する場合は、奥様は「専従者」という名の従業員と同様の扱いになるため、開業届の「給与等の支払の状況」欄には専従者の情報を記入し、「税額の有無」も「有」になります。単に無償で手伝ってもらうだけであれば、従業員には該当しません。
Q3: 外注のデザイナーさんに毎月報酬を支払います。これは給与ですか?
A3: いいえ、給与ではありません。前述の通り、業務委託契約に基づく支払い(外注費)は「給与」とは区別されます。したがって、開業届の従業員数にカウントする必要はありません。ただし、デザイン料などの特定の報酬を個人に支払う場合、事業主側で所得税を源泉徴収する義務が発生することがあります。これは「給与の源泉徴収」とは別の話ですが、個人事業主が注意すべき税務の一つなので、頭の片隅に置いておくと良いでしょう。
面倒な書類作成はツールで解決!開業準備をスマートに進めよう
ここまで「給与等の支払の状況」欄について詳しく解説してきましたが、「やっぱり専門用語が多くて難しく感じる…」と思った方もいるかもしれません。実際、開業届には他にも分かりにくい項目がいくつかあります。
開業届の作成、手書きはもう古い?
国税庁のサイトからPDFをダウンロードして手書きやPCで入力する方法もありますが、以下のようなデメリットがあります。
- どの項目に何を書けばいいか、一つひとつ調べるのに時間がかかる
- 慣れない書類作成で、記入ミスや漏れが起こりやすい
- そもそも専門用語が分からず、不安なまま提出することになる
今回解説した「給与等の支払の状況」欄のように、たった一つの項目で悩んでしまい、貴重な時間を浪費してしまうのは非常にもったいないことです。
無料で使える「マネーフォワード クラウド開業届」が最強のパートナー
そこでおすすめしたいのが、会計ソフトで有名なマネーフォワードが提供する「マネーフォワード クラウド開業届」です。このツールを使えば、開業に関する書類作成の悩みが一気に解決します。
メリットは以下の通りです。
- 質問に答えるだけ: 画面の案内に沿って、いくつかの簡単な質問に答えるだけで、必要な情報が自動で入力されます。
- 自動で正しく入力: 今回のテーマである「給与等の支払の状況」も、従業員の有無に関する質問に「いない」と答えるだけで、ツールが自動的に「0人」「無」と正しく入力してくれます。
- 必要書類をまとめて作成: 開業届だけでなく、節税に必須の「青色申告承認申請書」や、必要であれば「インボイス登録申請書」まで、必要な書類一式を同時に作成できます。
- 完全無料で利用可能: これだけの高機能ながら、利用料は一切かかりません。
手書きで調べて書き込む時間と労力を考えれば、使わない手はありません。以下のリンクからすぐに無料で利用を開始できます。
開業準備の全体像を掴むには
開業届の提出は、個人事業主になるためのステップの一つに過ぎません。事業用の銀行口座開設、国民年金や健康保険の切り替え、必要な備品の準備など、やるべきことはたくさんあります。
「何から手をつければいいか分からない」「開業までの全体の流れを把握したい」という方のために、開業準備のすべてを網羅した詳細なガイド記事を用意しています。マネーフォワード クラウド開業届の使い方から、提出後の手続きまでを丁寧に解説しているので、ぜひこちらの記事も併せてご覧ください。
【開業準備ガイド】個人事業主になるには?無料の「マネーフォワード クラウド開業届」で書類作成から提出まで完全サポート!
まとめ
今回は、開業届の「給与等の支払の状況」欄の書き方について、従業員がいないケースに絞って詳しく解説しました。
重要なポイントをもう一度おさらいしましょう。
- 従業員なし・予定なしの場合は、従業員数「0人」、税額の有無「無」でOK。
- 将来従業員を雇うことになったら、その時点で「給与支払事務所等の開設届出書」を提出すれば良い。
- 間違えても大きなペナルティはないが、税務署から連絡が来たら正直に状況を伝えれば問題ない。
開業届は、あなたのビジネスの始まりを告げる大切な書類ですが、その作成に過度な時間やストレスをかける必要はありません。
特に、今回のような細かい疑問は、便利なツールを使えば一瞬で解決できます。ぜひマネーフォワード クラウド開業届のような無料サービスを賢く活用し、あなたの貴重なエネルギーは、これからの事業を成長させることに集中させてください。
この記事が、あなたのスムーズなスタートアップの一助となれば幸いです。
