Webサービスや社内システムのIDとパスワード、あなたのチームではどのように管理していますか。
担当者の個人メモや、パスワード付きのExcelファイルを共有サーバーに置いている、といったケースは少なくないかもしれません。
しかし、そうした管理方法は「属人化」を招き、業務の停滞や深刻なセキュリティリスクに直結する危険性をはらんでいます。
担当者が急に休んだら誰もログインできない。
退職した社員が、会社の重要情報にアクセスできてしまう。
考えただけでも恐ろしい事態です。
この記事では、多くの企業が導入しているGoogle Workspaceを活用して、こうしたパスワード管理の課題を根本から解決し、安全かつ効率的な認証情報共有の仕組みを構築する方法を、具体的な手順と共に詳しく解説します。
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なぜパスワードの「属人化」は危険なのか?見過ごされがちな3つのリスク
「パスワードは担当者が管理しているから大丈夫」という考えは、ビジネスにおいて非常に危険です。属人化されたパスワード管理が引き起こすリスクは、単なる「不便さ」では済みません。事業の継続性を脅かし、企業の信頼を失墜させる可能性すらあるのです。ここでは、多くの組織で見過ごされがちな3つの具体的なリスクについて掘り下げていきます。
リスク1: 「あの人しか知らない」が業務を止める
最も頻繁に発生するのが、担当者不在による業務停止です。例えば、Webサイトのサーバー管理画面、契約しているSaaSツールの管理者アカウント、SNSの公式アカウントなど、特定の担当者しかパスワードを知らないケースは多いでしょう。もしその担当者が急な病気や休暇で不在になった場合、どうなるでしょうか。緊急のサーバーメンテナンスが必要になっても誰も対応できず、ウェブサイトが長時間ダウンしてしまうかもしれません。顧客からの重要な問い合わせに対応するためのツールにログインできず、ビジネスチャンスを逃すことも考えられます。このように、パスワードの属人化は、機会損失に直結するボトルネックとなるのです。これは単なる非効率ではなく、ビジネスの生命線を断ち切りかねない重大なリスクと言えます。
リスク2: 退職者がもたらすセキュリティホール
次に深刻なのが、退職者による情報漏洩や不正アクセスのリスクです。従業員が退職する際、その人が管理していたすべてのアカウントのパスワードを変更していますか?Excelファイルなどで共有していた場合、そのファイル自体が外部に持ち出されている可能性も否定できません。退職者が悪意を持てば、顧客情報や企業秘密にアクセスし、外部に漏洩させたり、競合他社に情報を売ったりすることも可能です。また、悪意がなくとも、退職後も個人のスマートフォンに社内システムへのログイン情報が残っており、それがマルウェア感染などの原因で意図せず漏洩してしまうケースもあります。退職者のアカウント管理の不備は、企業の信頼を根底から揺るがす、時限爆弾のようなセキュリティホールなのです。
リスク3: “安全な”はずの個人契約パスワード管理ツールの落とし穴
近年、個人のリテラシー向上に伴い、個人でパスワード管理ツールを契約し、業務用のパスワードを管理しているケースも見受けられます。一見、セキュリティ意識が高く良いことのように思えますが、これもまた「シャドーIT」と呼ばれる新たなリスクを生み出します。会社が管理・監督できない個人契約のツールに、企業の重要な認証情報が保存されている状況は、非常に危険です。そのツールがセキュリティインシデントに見舞われた場合、会社は被害状況を把握することすらできません。また、その従業員が退職すれば、ツール内のデータはすべて失われ、結局は業務が滞ってしまいます。会社として管理できない領域に会社の重要資産(認証情報)が存在すること自体が、ガバナンス上の重大な問題なのです。
Google Workspaceで実現する「脱・属人化」パスワード管理術
属人化のリスクを理解した上で、具体的な解決策として注目したいのが、多くの企業で既に導入されているGoogle Workspaceです。特別なツールを追加導入することなく、Google Workspaceの標準機能だけで、安全で管理しやすい認証情報共有の仕組みを構築できます。ここでは、その核心となる3つのステップを紹介します。
ステップ1: Googleアカウントを認証のハブにする (SSOの活用)
最初のステップは、可能な限り多くの社内システムやSaaSへのログインを「Googleアカウントでログイン」に統一することです。これはシングルサインオン(SSO)と呼ばれる仕組みで、ユーザーはGoogleアカウントのIDとパスワードさえ覚えておけば、複数のサービスにアクセスできるようになります。これにより、従業員が覚えるべきパスワードの数が劇的に減り、パスワードの使い回しや安易なパスワード設定を防ぐ効果が期待できます。管理者側にとってもメリットは絶大です。従業員の入社時にはGoogleアカウントを発行し、退職時にはそのアカウントを停止または削除するだけで、関連するすべてのサービスへのアクセス権を一元的に管理できます。これにより、退職者のアカウント削除漏れといったヒューマンエラーを根本からなくすことができるのです。
ステップ2: 共有アカウントの安全な運用法 – 「共有ドライブ」が鍵
SSOに対応していないサービスや、部署で共有する必要があるアカウント(例: 共有メールアドレス、SNSアカウントなど)も依然として存在するでしょう。こうした認証情報を安全に共有する上で絶大な効果を発揮するのが「共有ドライブ」です。個人のGoogleドライブとは異なり、共有ドライブに保存されたファイルやフォルダは、個人ではなく組織(チーム)に帰属します。ここに、パスワードを記載したGoogleドキュメントやスプレッドシートを保存するのです。最大のメリットは、ファイルを作成したメンバーが異動や退職でチームから抜けても、ファイルは共有ドライブに残り続ける点です。これにより、「担当者が辞めたらファイルも消えてしまった」という最悪の事態を防げます。パスワード情報を更新した際も、共有ドライブ上の一つのファイルを更新するだけで、常に最新の情報がチーム全員に共有されるため、管理が非常にシンプルになります。
ステップ3: アクセス権限のベストプラクティス – 「最小権限の原則」の徹底
共有ドライブを活用する上で、必ず徹底したいのが「最小権限の原則」です。これは、「ユーザーには業務遂行に必要な最小限の権限のみを与える」というセキュリティの基本原則です。Google Workspaceでは、共有ドライブやファイル単位で、非常に細かいアクセス権限設定が可能です。
- 管理者: メンバーの追加や削除、共有ドライブ自体の設定変更が可能。
- コンテンツ管理者: ファイルの追加、編集、移動、削除が可能。
- 投稿者: ファイルの追加、編集が可能。(削除は不可)
- 閲覧者(コメント可): ファイルの閲覧とコメントが可能。
- 閲覧者: ファイルの閲覧のみ可能。
例えば、アルバイトやインターンのメンバーには「閲覧者」権限のみを付与し、正社員には「投稿者」権限を付与するといった運用が考えられます。これにより、誤操作による重要情報の削除や、必要以上の情報へのアクセスを防ぎます。必要な人に、必要な期間だけ、必要な権限を与える。この地道な管理こそが、組織のセキュリティレベルを大きく向上させるのです。
一歩進んだセキュリティ対策: Google Workspaceの高度な機能を使いこなす
基本的な管理体制を整えたら、次はGoogle Workspaceが提供する高度なセキュリティ機能を活用して、さらに盤石な体制を築きましょう。特にBusiness Standard以上のプランを契約している場合、多くの強力な機能が利用可能です。ここでは、不正アクセス防止とコンプライアンス強化に役立つ3つの機能を紹介します。
機能1: 多要素認証 (MFA) の徹底で不正アクセスをブロック
パスワードが万が一漏洩してしまっても、不正アクセスを防ぐ最後の砦となるのが多要素認証(MFA)です。Google Workspaceの管理コンソールでは、組織全体または特定の部門に対して、多要素認証を強制適用する設定が可能です。これにより、すべてのユーザーはパスワード入力に加えて、スマートフォンアプリでの確認やセキュリティキーの物理的なタッチなど、第二の認証が必須となります。特に、物理的な「Titan セキュリティ キー」のようなハードウェアトークンを利用すれば、フィッシング詐欺に対する極めて高い耐性を実現できます。パスワード管理の議論において、MFAの導入はもはや「推奨」ではなく「必須」の項目です。必ず設定を有効化しましょう。
機能2: 監査ログで「いつ、誰が、何をしたか」を追跡
「誰かが勝手にパスワード情報を書き換えたかもしれない」「不審なログインがあったようだ」。こうした疑念が生じた際に役立つのが、管理コンソールの監査ログ機能です。この機能を使えば、どのユーザーが、いつ、どのファイルにアクセスし、どのような操作(閲覧、編集、削除など)を行ったかを詳細に追跡・記録できます。例えば、「共有ドライブ内のパスワード管理ファイルに対するアクセスログ」を定期的にレビューすることで、不審なアクティビティを早期に検知することが可能です。問題が発生した際の原因究明や、将来の対策を講じる上で、この監査ログは不可欠な情報源となります。
機能3: Business Plus以上なら必須: Google Vaultで情報を保全
より高度なガバナンスやコンプライアンスが求められる組織であれば、Business Plus以上のプランで利用できる「Google Vault」の活用を強く推奨します。Vaultは、Google Workspace上のデータを電子情報開示やコンプライアンス目的で保持、検索、書き出しができるアーカイブサービスです。たとえユーザーが共有ドライブからファイルを削除してゴミ箱を空にしたとしても、Vaultには設定した期間(無期限も可)データが保持されます。これにより、意図的または偶発的なデータ削除から重要情報を保護できます。訴訟などの法的な要請があった際に、特定のキーワードを含むドキュメントを横断的に検索し、証拠として提出することも可能です。パスワードのような機密情報を扱う上で、Vaultによる情報保全は、組織を守るための強力な保険となります。
【独自視点】パスワード管理だけじゃない!AIアシスタント「Gemini」がもたらすセキュリティ業務の効率化
Google Workspaceの価値は、単なるツールセットの提供に留まりません。2025年現在、その中核にはAIアシスタント「Gemini」が統合されており、セキュリティ管理業務そのものを変革するポテンシャルを秘めています。パスワード管理という文脈においても、Geminiは強力なサポーターとなり得ます。
活用例1: 強力かつユニークなパスワードの生成
共有アカウントのパスワードを定期的に変更する際、「どんなパスワードにしようか」と悩む時間は無駄です。そんな時はGeminiに「ランダムで覚えにくく、16文字以上で大文字、小文字、数字、記号を含む強力なパスワードを5つ提案して」と依頼するだけで、瞬時に高強度のパスワードリストを作成してくれます。これにより、担当者の負担を軽減しつつ、セキュリティポリシーに準拠したパスワード運用を徹底できます。
活用例2: アクセス権限ポリシーの壁打ち相手に
「新しく立ち上げるプロジェクトの共有ドライブ、どんな権限ポリシーにすれば安全だろうか?」こうした悩みに対しても、Geminiは有効です。例えば、「『マーケティング部』と『営業部』が参加するプロジェクト用の共有ドライブのアクセス権限ポリシー案を、最小権限の原則に基づいて提案して。役割はプロジェクトマネージャー、正社員、業務委託の3種類とする」といった具体的なプロンプトを入力すれば、Geminiはそれぞれの役割に応じた適切な権限設定の草案を提示してくれます。セキュリティの専門家と壁打ちするように、自社のポリシーを洗練させていくことができるのです。
活用例3: パスワード管理マニュアルの自動作成
せっかくルールを定めても、それが形骸化しては意味がありません。Geminiを使えば、策定したパスワード管理ルールや共有ドライブの利用手順をまとめたマニュアル作成を大幅に効率化できます。「これから話すルールに基づいて、新入社員向けのパスワード管理マニュアルを作成して」と依頼し、箇条書きでルールを伝えるだけで、分かりやすく体系化されたドキュメントの初稿が完成します。これにより、常に最新のルールがドキュメントとして整備され、新メンバーへのオンボーディングもスムーズに進みます。
まとめ: 脱・属人化で、安全と効率を両立する未来へ
本記事では、多くの組織が抱えるパスワードの属人化という課題に対し、Google Workspaceを活用した具体的かつ実践的な解決策を解説しました。
個人の記憶やローカルファイルに依存した危険な管理体制から脱却し、
- シングルサインオン(SSO)による認証の一元化
- 共有ドライブを活用した安全な情報共有
- 最小権限の原則に基づいた厳格なアクセス管理
- 多要素認証やVaultといった高度なセキュリティ機能の活用
これらを組み合わせることで、組織のセキュリティレベルを飛躍的に高めながら、業務効率を損なわない、むしろ向上させる理想的な環境を構築できます。
もし、あなたの組織がまだ旧来のパスワード管理に悩んでいるのであれば、まずは自社の現状を見直し、Google Workspaceの導入・活用を検討してみてはいかがでしょうか。
Google Workspaceの導入を本格的に検討している、あるいはプランのアップグレードを考えているなら、お得なプロモーションコードを利用しない手はありません。最新の割引価格で契約できるプロモーションコードの入手方法や適用手順については、以下のページで詳しく解説していますので、ぜひご一読ください。