「机の上が領収書や請求書でいっぱい…」。
「確定申告の時期になるたびに、あの書類はどこだっけ?と探すのに一苦労…」。
個人事業主やフリーランスとして活動していると、多くの人がこのような悩みに直面するのではないでしょうか。
もし、その大量の紙の書類を「スマホで写真を撮って、すぐに捨てられる」としたら、経理業務は劇的に楽になると思いませんか?
実はそれを可能にするのが、電子帳簿保存法の「スキャナ保存制度」です。
この記事では、個人事業主がスキャナ保存制度を活用して、面倒な書類管理から解放されるための具体的な手順とポイントを、2025年12月時点の最新情報に基づいてわかりやすく解説します。
そもそも電子帳簿保存法の「スキャナ保存」とは?
「電子帳簿保存法」という言葉を聞くと、「何だか難しそう」「大企業向けの話でしょ?」と感じるかもしれません。しかし、近年の法改正により、今や個人事業主にとっても非常に身近で、活用すべき制度となっています。
個人事業主にこそメリットが大きいスキャナ保存
スキャナ保存とは、紙で受け取った領収書や請求書、契約書などを、スキャナやスマートフォンのカメラで読み取って画像データとして保存することを認める制度です。従来、これらの書類は原則として7年間の原本保管が義務付けられていましたが、一定の要件を満たしてスキャナ保存を行えば、原本の紙をすぐに破棄できるようになります。
特に、2022年の法改正で要件が大幅に緩和されたことで、個人事業主でも手軽に導入できるようになりました。この制度を活用するメリットは計り知れません。
- メリット1:完全なペーパーレス化の実現
物理的な保管スペースが不要になります。分厚いファイルや段ボール箱に埋もれていたデスク周りがすっきりし、オフィスや自宅のスペースを有効活用できます。 - メリット2:圧倒的な業務効率の向上
「あの領収書どこだっけ?」と探す時間はもうありません。データで管理することで、日付や取引先名で瞬時に検索可能に。外出先からでもスマホ一つで経費の確認ができ、時間を有効に使えます。 - メリット3:コスト削減とセキュリティ向上
ファイルや保管棚などの備品代、書類を保管するための倉庫代といったコストを削減できます。また、データはクラウド上にバックアップしておけば、火災や紛失といった物理的なリスクからも大切な情報を守ることができます。
このように、スキャナ保存は、日々の雑務に追われがちな個人事業主の業務を効率化し、本業に集中できる環境を作るための強力な武器となるのです。
個人事業主がスキャナ保存を始めるための具体的な4ステップ
「メリットはわかったけど、具体的にどう始めればいいの?」と感じる方も多いでしょう。ご安心ください。やるべきことは非常にシンプルです。ここでは、誰でも実践できる4つのステップに分けて解説します。
ステップ1:スキャナ保存に対応したシステムを準備する
スキャナ保存を行うには、「真実性の確保」や「可視性の確保」といった法律で定められた要件を満たす必要があります。具体的には、「訂正や削除の履歴が残る」「タイムスタンプが付与される」「日付・金額・取引先で検索できる」などの条件です。
これを手動で管理するのは非常に困難で、現実的ではありません。そこで最も簡単かつ確実なのが、電子帳簿保存法に対応した会計ソフトを導入することです。
JIIMA(日本文書情報マネジメント協会)の認証を受けている会計ソフトであれば、これらの要件を自動で満たしてくれます。スマホアプリと連携しているソフトを選べば、撮影から保存までをシームレスに行え、非常にスムーズです。
ステップ2:スマートフォンやスキャナで書類を読み取る
書類の電子化には、スマートフォン、デジタルカメラ、スキャナなどが使用できます。特に個人事業主の方には、いつでもどこでも手軽に撮影できるスマートフォンがおすすめです。
読み取る際には、以下の解像度とカラーに関する要件を守る必要があります。
- 解像度: 200dpi(ドット・パー・インチ)以上
- カラー: 原則としてカラー画像(書類が白黒の場合はグレースケールも可)
最近のスマートフォンのカメラは非常に高性能なので、普通に撮影すれば解像度の要件はほとんどの場合クリアできます。大切なのは、文字がはっきりと読めるように、ピントを合わせて明るい場所で撮影することです。
ステップ3:タイムスタンプを付与する(または代替措置を行う)
スキャナ保存には、そのデータが特定の時刻に存在し、それ以降改ざんされていないことを証明するための「タイムスタンプ」の付与が求められます。
しかし、ここにも緩和措置があります。「訂正・削除の履歴が残る、または訂正・削除ができないシステム」に「入力期間内」に保存すれば、タイムスタンプの付与は不要とされています。
ステップ1で紹介した会計ソフトの多くは、この要件を満たしています。つまり、対応する会計ソフトのアプリを使って領収書を撮影・アップロードするだけで、最も手間のかかるタイムスタンプ要件を自動的にクリアできるのです。
ステップ4:取引情報を入力してデータを保存する
最後に、読み取った画像データに取引年月日、取引金額、取引先名といった情報を紐づけて保存します。これにより、後からデータを検索・確認できるようになります。
これも会計ソフトを利用する大きなメリットがある部分です。多くの会計ソフトにはOCR(光学的文字認識)機能が搭載されており、撮影した領収書の画像から日付や金額を自動で読み取り、入力の手間を大幅に削減してくれます。勘定科目の自動提案機能などもあり、簿記の知識に自信がない方でも安心して仕訳ができます。
スキャナ保存を成功させるための注意点とQ&A
スキャナ保存は非常に便利な制度ですが、正しく運用するために知っておくべき注意点も存在します。ここでは、よくある疑問と合わせて解説します。
注意点1:入力期間の制限を必ず守る
スキャナ保存で最も注意すべきなのが、書類を読み取ってからシステムに入力するまでの期間です。この期間は2種類あり、事業者がどちらの方式を採用するかを事前に決めておく必要があります。
- 早期入力方式: 書類を受領してから「速やか(おおむね7営業日以内)」に入力する方法。
- 業務サイクル入力方式: 業務の処理にかかる通常の期間を経過した後「速やか(最長2ヶ月とおおむね7営業日以内)」に入力する方法。
「後でまとめてやろう」と書類を溜め込んでしまうと、この期間を過ぎてしまい、スキャナ保存の要件を満たせなくなる可能性があります。スマートフォンで撮影したら、その場ですぐに会計ソフトにアップロードする習慣をつけることが成功の秘訣です。
注意点2:全ての書類を捨てられるわけではない
スキャナ保存制度を使えば多くの書類をデータ化して破棄できますが、一部、原本での保存が義務付けられている書類も存在します。例えば、貸借対照表や損益計算書といった決算関係書類や、仕訳帳、総勘定元帳などは、引き続き原本(または電子帳簿保存法の「電子取引」や「電子帳簿」の要件を満たしたデータ)での保存が必要です。むやみに全ての書類を捨ててしまわないよう注意しましょう。
よくあるQ&A
Q. 税務調査の際はどう対応すればよいですか?
A. 税務調査官から提示を求められた際は、保存している電子データをPCの画面に表示したり、プリンターで出力したりして提示します。会計ソフトを導入していれば、検索機能を使ってすぐに該当データを見つけ出せるため、慌てることなくスムーズに対応できます。
Q. 本当に原本を捨ててしまって大丈夫なのでしょうか?
A. はい、法律で定められた要件をきちんと満たしてさえいれば、法的に何の問題もありません。ただ、制度を導入したばかりの頃は不安に感じるかもしれません。その場合は、最初の1年間だけは原本も保管しておくなど、自分なりのルールを設けて少しずつ慣れていくのも良いでしょう。
Q. どの会計ソフトを選べばいいのかわかりません。
A. まず大前提として、JIIMA認証を取得しているソフトを選ぶことが重要です。その上で、ご自身の事業規模やITリテラシーに合った、操作が直感的に分かりやすいソフトを選ぶのがおすすめです。料金プランやサポート体制も比較検討すると良いでしょう。
多くの個人事業主に支持されている会計ソフトの機能や選び方については、こちらの記事でさらに詳しく解説しています。ぜひ参考にしてみてください。
【完全ガイド】マネーフォワード クラウド確定申告とは?使い方・評判・料金まで個人事業主向けに徹底解説
まとめ:書類整理から解放され、本業に集中しよう
今回は、個人事業主が電子帳簿保存法のスキャナ保存制度を活用し、ペーパーレス化を実現するための具体的な手順と注意点を解説しました。
要点をまとめると以下の通りです。
- スキャナ保存を活用すれば、スマホで撮った領収書や請求書の原本をすぐに捨てられる。
- 法改正で要件が緩和され、個人事業主でも簡単に導入できるようになった。
- JIIMA認証の会計ソフトを使えば、複雑な要件を自動でクリアできる。
- 書類を受け取ったら「すぐに撮影・アップロード」を習慣化することが成功の鍵。
面倒な書類のファイリングや保管、確定申告時の書類探しといった非生産的な時間から解放されれば、あなたはもっと本業に集中し、ビジネスを成長させるための時間を生み出せるはずです。
スキャナ保存を始める第一歩として、まずは無料で試せる会計ソフトを導入し、その便利さを体験してみてはいかがでしょうか。日々の経理業務が驚くほど楽になりますよ。
