海外に住んでいると、日本で積み立ててきた年金をどうやって受け取るかは切実な問題です。
銀行の海外送金は手数料が高く、為替レートも不透明で、毎回数千円単位のコストがかかることも珍しくありません。
「WISEを使えば年金も安く受け取れるのでは?」と考える方は多いのではないでしょうか。
私自身、海外在住者として日本からの送金手段についてはかなり調べてきました。
結論から言うと、日本の年金をWISEで「直接」受け取ることには制約がありますが、工夫次第でWISEを活用してコストを大幅に抑えることは可能です。
海外在住者の年金受給 ── まず知っておくべき基本の仕組み
海外に住んでいても日本の年金は受け取れる
日本の公的年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金)は、海外に居住していても受給資格を満たしていれば受け取ることができます。受給に必要な加入期間は原則10年以上で、これは日本国内に住んでいた期間だけでなく、社会保障協定を結んでいる国での加入期間も通算できる場合があります。
2026年4月時点で、日本は23か国と社会保障協定を締結しています。アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、オーストラリア、韓国などが含まれており、これらの国に在住している方は二重加入の防止や期間通算の恩恵を受けられます。
年金の受取方法は「日本国内の口座」か「海外送金」の2択
海外在住者が年金を受け取る方法は、大きく分けて2つあります。
- 日本国内の銀行口座で受け取る
- 日本年金機構から海外の銀行口座へ直接送金してもらう
日本国内の口座で受け取る場合は、日本に住所がなくても維持できる銀行口座(ゆうちょ銀行など一部の金融機関)が必要です。ただし、非居住者になると口座の利用に制限がかかる銀行もあるため、事前の確認が欠かせません。
海外口座への直接送金を希望する場合は、日本年金機構に「年金の支払いを受ける者に関する届書(海外居住者用)」を提出し、受取口座の情報(SWIFTコード、口座番号など)を届け出ます。この場合、年金機構が指定する送金銀行を通じて国際送金が行われるため、中継銀行手数料や為替手数料が差し引かれた金額が入金されることになります。
なぜ受取方法の選択がこれほど重要なのか
年金の受取にかかるコストは、方法によって年間で数万円の差が出ます。たとえば、2か月に1回の年金支給のたびに海外送金手数料が3,000〜5,000円かかるとすると、年間で18,000〜30,000円のコストになります。さらに、銀行が設定する為替レートには1〜3%程度の上乗せ(隠れコスト)が含まれているケースがほとんどです。
仮に年金額が月額15万円(年間180万円)だとすると、為替レートの上乗せだけで年間18,000〜54,000円の損失が生じている計算です。送金手数料と合わせると、最大で年間8万円以上を「見えないコスト」として支払っている可能性があります。
海外在住が長期にわたる場合、この差は10年で数十万円に膨らみます。だからこそ、受取方法の最適化は非常に重要なのです。
WISEで日本の年金を受け取ることはできるのか?
WISEの日本円口座への直接入金は「年金機構からは不可」
WISEは50以上の通貨に対応したマルチカレンシー口座を提供しており、日本円の口座情報も取得できます。しかし、日本年金機構が年金の振込先として指定できるのは、日本国内の銀行口座(全銀システムに接続された金融機関)か、海外の銀行口座(SWIFTコードを持つ金融機関)です。
WISEの日本円口座は、振込用の口座番号こそ発行されますが、これは提携銀行を経由した仕組みであり、年金機構が求める「本人名義の銀行口座」の要件を満たさない場合があります。2026年4月時点では、年金機構の振込先としてWISEの口座を直接登録できたという公式な情報は確認されていません。
また、WISEの海外口座情報(たとえばアメリカのACH口座やイギリスのSort Code口座)については、年金機構の海外送金がSWIFT経由で行われるため、SWIFT受取に対応していないWISEの一部通貨口座では受け取れない点にも注意が必要です。
ではWISEをどう活用するのか ── 実践的な2ステップ方式
直接受取ができないからといって、WISEが使えないわけではありません。多くの海外在住者が実践しているのは、以下の2ステップ方式です。
ステップ1:年金を日本国内の銀行口座で受け取る
まず、日本国内に維持している銀行口座(ゆうちょ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行など)で年金を受け取ります。非居住者届を出していても口座を維持できる金融機関を選ぶことがポイントです。ゆうちょ銀行は非居住者でも口座を維持しやすいと言われていますが、各行の最新の規約を必ず確認してください。
ステップ2:日本の口座からWISEで海外の自分の口座に送金する
日本の口座に入金された年金を、WISEを使って海外の自分の口座に送金します。WISEの送金手数料は、たとえば日本円からアメリカドルへの送金の場合、15万円あたり約1,000〜1,500円程度(為替レートの上乗せなし)です。従来の銀行送金と比較すると、手数料で50〜70%程度のコスト削減が期待できます。
WISEの最大の強みは、為替レートにミッドマーケットレート(実際の市場中間レート)を使用する点です。銀行が独自に設定する為替レートとは異なり、隠れた上乗せがないため、送金額が大きくなるほどその恩恵も大きくなります。
WISEの口座開設や送金の具体的な手順については、WISE個人口座の完全ガイド記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
WISEで送金する際の具体的な手順
実際にWISEを使って年金を海外に移す手順を、より具体的に説明します。
1. WISEの公式サイトでアカウントを作成し、本人確認を完了させる(マイナンバーカードまたはパスポートが必要)
2. WISEにログインし、「送金」を選択。送金元通貨を「JPY(日本円)」、送金先通貨を居住国の通貨に設定する
3. 送金額を入力すると、手数料と受取額がリアルタイムで表示される。この透明性がWISEの大きな特長
4. 送金先の銀行口座情報を入力し、送金を確定する
5. WISEが指定する日本国内の銀行口座に振込を行う(自分の日本の口座からネットバンキングで振込可能)
6. 通常1〜2営業日で、海外の受取口座に着金する
ここで私の経験からのアドバイスですが、年金の支給日(偶数月の15日)の直後にまとめて送金するよりも、為替レートが有利なタイミングを見計らって送金するほうが結果的に得になることがあります。WISEにはレートアラート機能があり、希望するレートに達した際に通知を受け取ることができます。急がない資金であれば、この機能を活用するのも一つの手です。
よくある失敗と注意点
WISEを活用した年金の海外送金で、つまずきやすいポイントをまとめます。
- 日本の銀行口座が凍結されるリスク:海外転出届を出した後、銀行に非居住者届を提出していないと、後日口座が凍結される可能性があります。渡航前に必ず手続きを済ませましょう
- WISEの送金限度額:WISEには1回あたり、および年間の送金限度額があります。年金額が大きい場合は、複数回に分けて送金する必要が生じることがあります
- 送金目的の記載:WISEで送金する際に送金目的を聞かれます。「年金の受取に伴う自己資金の移動」など、正確に記載してください。虚偽の記載はマネーロンダリング防止の観点からアカウント停止につながる恐れがあります
- ネットバンキングの海外からの利用制限:一部の日本の銀行では、海外IPアドレスからのネットバンキングアクセスを制限しています。VPNの利用が必要になる場合もありますが、銀行の利用規約に抵触しないか事前に確認してください
WISE以外の選択肢との比較
主な送金手段の比較
海外在住者が年金を受け取る際の主な選択肢を比較してみましょう。以下は15万円を日本からアメリカに送金する場合の目安です(2026年4月時点の概算)。
銀行の海外送金(三菱UFJ銀行など):送金手数料3,000〜7,500円+為替マージン約1〜3%。着金まで3〜5営業日。信頼性は高いが、コストが最も高い。
WISE:送金手数料約1,000〜1,500円+為替マージンなし(ミッドマーケットレート適用)。着金まで1〜2営業日。コストパフォーマンスに最も優れる。
年金機構からの直接海外送金:送金手数料は年金から天引き(金額は非公開だが数千円程度と推定)+為替マージンあり。手間は最も少ないが、コストの透明性が低い。
海外在住の家族による国内受取+手渡し:手数料ゼロだが、家族の協力が必要で現実的でないケースが多い。
どの方法が最適か ── タイプ別おすすめ
年金額が月10万円以上で、ネットバンキングに抵抗がない方には、日本の口座で受け取ってWISEで送金する方法が最もコスト効率が良いでしょう。年間で3〜5万円以上の節約が見込めます。
ITに不慣れで手続きをシンプルにしたい方には、年金機構からの直接海外送金が安心です。コストは高くなりますが、自分で送金操作をする必要がありません。
日本に信頼できる家族がおり、定期的に帰国する方は、日本の口座に貯めておいて帰国時に必要分を引き出す方法も選択肢になります。
見落としがちな税金の問題 ── 年金受給と確定申告
海外在住者の年金にかかる税金
海外在住者が日本の年金を受け取る場合、日本国内では原則として20.42%の源泉徴収が行われます。ただし、日本と租税条約を締結している国に居住している場合は、「租税条約に関する届出書」を提出することで、源泉徴収の免除または軽減を受けられる可能性があります。
たとえば、アメリカに居住している場合、日米租税条約により日本での年金に対する源泉徴収が免除されるケースがあります(ただし、条約の適用には届出が必要です)。一方で、居住国側での課税義務が生じるため、居住国での確定申告は必要です。
この税務処理は非常に複雑で、日本側と居住国側の両方の税法を理解する必要があります。特に、年金の種類(基礎年金・厚生年金・企業年金・個人年金)によって租税条約の適用が異なる場合もあり、自己判断でのミスは過少申告や二重課税につながりかねません。
海外在住者こそ税理士への相談が重要
海外在住者の年金に関する税務は、国際税務の知識が必要な専門性の高い分野です。「源泉徴収されているから確定申告は不要」と思い込んでいる方も少なくありませんが、租税条約の届出を行うだけで手取り額が大きく変わるケースもあります。
たとえば、年間180万円の年金を受給している場合、20.42%の源泉徴収額は約36万円です。租税条約の届出により源泉徴収が免除されれば、この36万円がそのまま手取りに上乗せされます。WISEでの送金手数料の節約額とは桁違いのインパクトです。
国際税務に詳しい税理士を探すなら、税理士ドットコムが便利です。登録税理士数7,300名以上、累計実績43万件以上という日本最大級の税理士紹介プラットフォームで、専門のコーディネーターが希望条件(国際税務に強い、海外対応可能など)に合った税理士を無料で紹介してくれます。面談後に断ることも自由なので、まずは相談してみる価値は大いにあります。
税理士の選び方や費用相場について詳しく知りたい方は、税理士ドットコム完全ガイド記事も参考にしてください。費用の目安から紹介サービスの活用法まで網羅的にまとめています。
まとめ ── 海外在住者が年金を賢く受け取るために
この記事のポイントを整理します。
- 日本の年金は海外在住でも受給可能。受取方法は「日本国内口座」か「海外直接送金」の2択
- WISEの口座で年金を直接受け取ることは、2026年4月時点では困難。ただし、日本の口座で受け取った年金をWISEで海外送金することで、大幅なコスト削減が可能
- WISEを使えば、銀行送金と比較して年間3〜5万円以上の節約が見込める
- 為替レートのタイミングを見計らうことで、さらに有利な条件での送金も可能
- 年金にかかる税金(源泉徴収・租税条約)の最適化は、送金手数料の節約以上に大きなインパクトがある。国際税務に強い税理士への相談を強く推奨
まず取るべき行動は3つです。第一に、日本の銀行口座が非居住者として維持できる状態かを確認すること。第二に、WISEのアカウントを開設して本人確認を済ませておくこと。WISEの登録手順や初めての送金方法についてはWISE個人口座の完全ガイド記事で詳しく解説しています。そして第三に、租税条約の届出について、国際税務に詳しい税理士に相談すること。この3つを押さえれば、海外での年金生活のコストは確実に最適化できます。
