親が大切に育ててきたお店や事業を、自分が引き継ぐ。
それは、とてもやりがいがあり、誇らしい決断ですよね。
しかし、その大きな決断の裏には、「事業承継」という複雑な手続きが待ち構えています。
「親の店の廃業と、自分の開業、何から手をつければいいの?」。
「手続きが複雑そうで、考えるだけで頭が痛い…」。
そんな不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、個人事業主である親の事業を、子が引き継ぐケースに焦点を当てます。
具体的には、「親の廃業」と「子の開業」をスムーズに、そして賢く同時に進めるための手続きを、ステップバイステップで徹底解説します。
この記事を読めば、必要な書類から手続きのタイミング、そして成功のためのポイントまで、事業承継の全体像が明確になります。
大切な事業を未来へ繋ぐための第一歩を、ここから踏み出しましょう。
なぜ「親の廃業」と「子の開業」を同時に進めるのが最適解なのか
親から子へ事業を引き継ぐ「事業承継」。その方法には、実はいくつかの選択肢があります。しかし、多くの個人事業主にとって最も現実的でメリットが大きいのが、「親が事業を廃業し、子が新たに開業する」という方法です。なぜこの方法が推奨されるのか、その理由と具体的なメリット・デメリットを掘り下げていきましょう。
事業承継の主な選択肢
事業承継と一言で言っても、その形は様々です。代表的なものには以下のような方法があります。
- 法人化して株式を譲渡・相続する: 親の個人事業を一度法人化(会社にし)し、その株式を子に譲渡または相続させる方法。節税面でのメリットが期待できますが、法人設立のコストや手続きが煩雑になります。
- 事業譲渡(M&A): 親の事業全体を一つのパッケージとして、子が買い取る方法。資産や負債、契約関係などをまとめて引き継げますが、売買契約の締結や資産評価など、専門的な知識が必要になります。
- 親の廃業と子の新規開業: これが本記事でメインテーマとする方法です。手続きが比較的シンプルで、親子間の実態に合わせて柔軟に進められるのが特徴です。
小規模な店舗や事業の場合、法人化や事業譲渡は費用や手間がかかりすぎるケースが少なくありません。そのため、手続きのシンプルさと費用の安さから、「親の廃業+子の開業」が最も選ばれやすいのです。
「廃業→開業」方式の具体的なメリット
この方法の最大のメリットは、実質的に事業の連続性を保ちながら、手続き上は完全に新しいスタートを切れる点にあります。
- 顧客や取引先をスムーズに引き継げる: 親が廃業し、子が同じ場所・同じ屋号で開業すれば、顧客や取引先は「代替わりしたんだな」と自然に認識してくれます。事業譲渡のような複雑な契約の巻き直しも不要な場合が多く、ビジネスへの影響を最小限に抑えられます。
- 屋号の引継ぎが容易: 思い入れのある屋号を、子は自身の開業届に記載するだけで、基本的には引き継ぐことができます。(※商標登録されている場合などを除く)
- 不要な負債を引き継がなくて済む: 事業譲渡では、親の事業の負債(借入金など)も原則として引き継ぐことになります。しかしこの方法なら、子はあくまで「新規開業」のため、親の負債を自動的に背負うことはありません。どの資産を引き継ぎ、どの負債は親の代で清算するかを、親子間で柔軟に決められます。
知っておくべきデメリットと注意点
もちろん、良いことばかりではありません。注意すべき点も理解しておきましょう。
- 許認可の再取得が必要: 例えば、飲食店営業許可や古物商許可などは、事業主個人に対して与えられているものです。そのため、親が廃業すれば許可は失効し、子は新たに自分の名前で許可を取り直す必要があります。申請には時間や費用がかかるため、事前にしっかり計画を立てることが不可欠です。
- 資産の引継ぎ方に税金がかかる場合がある: 親が使っていた店舗や設備、在庫などを子が引き継ぐ際、その方法によって税金(贈与税や所得税)が発生する可能性があります。「タダでもらう(贈与)」のか、「適正価格で買い取る(売買)」のかによって扱いが変わるため、税務署や税理士への事前相談をおすすめします。
これらのメリット・デメリットを理解した上で、計画的に手続きを進めることが、スムーズな事業承継の鍵となります。
【親編】廃業時に必要な手続きの完全ステップガイド
長年続けてきた事業を閉じるのは、感慨深いものがあるでしょう。しかし、手続きは漏れなく正確に行う必要があります。ここでは、親が「廃業」する際に、税務署などに提出すべき主な書類と、その流れを分かりやすく解説します。提出期限が短いものもあるので、事前にしっかり確認しておきましょう。(※2026年1月時点の情報です)
Step1: 個人事業の廃業届出書
これは廃業手続きの最も基本となる書類です。正式名称は「個人事業の開業・廃業等届出書」で、開業時と同じ様式の書類を使用します。「廃業」にチェックを入れ、必要事項を記入します。
提出先: 所轄の税務署
提出期限: 廃業の事実があった日から1ヶ月以内
事業を子に引き継ぐ「廃業日」をいつにするか、親子で話し合って決めておきましょう。子の開業日と同日にするのが一般的です。
Step2: 所得税の青色申告の取りやめ届出書
青色申告を行っていた場合は、この届出書を提出して青色申告者でなくなることを知らせる必要があります。これを忘れると、翌年以降も青色申告の義務が残っていると見なされる可能性があるので注意が必要です。
提出先: 所轄の税務署
提出期限: 廃業する年の翌年3月15日まで
Step3: 事業廃止届出書(消費税)
消費税の課税事業者であった場合に提出が必要です。免税事業者だった場合は提出不要です。
提出先: 所轄の税務署
提出期限: 廃業後、速やかに
Step4: 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書
従業員を雇い、給与を支払っていた場合に提出します。従業員がいない場合は不要です。
提出先: 所轄の税務署
提出期限: 廃業の事実があった日から1ヶ月以内
Step5: 最後の確定申告
廃業した年の1月1日から廃業日までの所得と、事業を廃止したことによる事業所得以外の所得(例えば、事業用資産を売却した場合の譲渡所得など)を合算して、確定申告を行います。
申告・納税期限: 廃業した年の翌年3月15日まで(通常の確定申告と同じ)
これらの手続きは、一見すると複雑に感じるかもしれません。しかし、一つひとつは難しいものではありません。提出期限をカレンダーに登録するなどして、漏れなく対応していきましょう。もし不安な点があれば、所轄の税務署に問い合わせれば親切に教えてくれます。
【子編】スムーズなスタートを切るための開業手続き完全ステップガイド
親からバトンを受け取り、いよいよ自分の事業としてスタートです。ここからは、子が行うべき「開業」の手続きについて解説します。特に、節税メリットの大きい「青色申告」を選択するためには、提出期限が非常に重要になります。手続きを効率化する便利なツールも紹介するので、ぜひ参考にしてください。(※2026年1月時点の情報です)
Step1: 個人事業の開業・廃業等届出書(開業届)
事業を開始したことを税務署に知らせるための、最も重要な書類です。親が提出した廃業届と同じ様式の書類ですが、こちらは「開業」にチェックを入れます。屋号を引き継ぐ場合は、この書類の「屋号」欄に記入します。
提出先: 所轄の税務署
提出期限: 事業開始の事実があった日から1ヶ月以内
Step2: 所得税の青色申告承認申請書
最大65万円の特別控除など、大きな節税メリットを受けられる「青色申告」を行うために必須の書類です。開業届と同時に提出するのが最も確実で効率的です。この申請を忘れると、その年は自動的に「白色申告」となり、節税の機会を逃してしまいます。
提出先: 所轄の税務署
提出期限: 原則として、開業日から2ヶ月以内
Step3: 青色事業専従者給与に関する届出書
親や配偶者など、生計を同じくする家族を従業員として雇い、その給与を経費にする場合に提出します。もし親に引退後も少し手伝ってもらい、給与を支払う予定があるなら、この届出を検討しましょう。給与を全額経費にできるため、節税効果が非常に高いです。
提出先: 所轄の税務署
提出期限: 給与を支払う年の3月15日まで(開業初年度は開業日から2ヶ月以内)
Step4: 給与支払事務所等の開設届出書
初めて従業員(青色事業専従者を含む)を雇い、給与を支払う場合に提出します。
提出先: 所轄の税務署
提出期限: 事務所開設の事実があった日から1ヶ月以内
開業手続きを圧倒的に効率化する裏ワザ
これらの書類を一つずつ手書きで作成し、税務署に持参または郵送するのは、思った以上に手間がかかります。特に、事業の引継ぎで忙しい時期には大きな負担となるでしょう。
そこでおすすめしたいのが、会計ソフト会社が提供する無料の開業支援サービスです。中でも「マネーフォワード クラウド開業届」は、多くの先輩起業家から支持されています。
画面の質問に答えていくだけで、開業届や青色申告承認申請書など、必要な書類一式が自動で作成されます。しかも、マイナンバーカードがあれば、スマホから電子申請で提出まで完了できるため、税務署に行く必要すらありません。
「何を書けばいいかわからない」という項目も、丁寧なガイドがあるので安心です。これから事業を始める方にとって、これほど心強いサービスはありません。詳しくは、以下の公式サイトでその便利さを体験してみてください。
これらの開業手続きについて、さらに詳しい情報や具体的なステップを知りたい方は、こちらのピラー記事「【開業準備ガイド】個人事業主になるには?無料の「マネーフォワード クラウド開業届」で書類作成から提出まで完全サポート!」も併せてご覧ください。開業準備の全体像がより深く理解できるはずです。
事業承継を絶対に成功させるための重要ポイント
書類上の手続きを滞りなく進めることはもちろん重要ですが、それだけでは事業承継は成功しません。資産の引継ぎや顧客との関係性など、数字や書類に表れない部分こそが、代替わり後の事業の行方を左右します。ここでは、円満かつスムーズな事業承継を実現するために、親子で必ず押さえておくべきポイントを解説します。
ポイント1: 資産・負債の明確化と引継ぎ方法の決定
まず、親の事業に関する資産(店舗・土地、設備、在庫、売掛金など)と負債(借入金、買掛金など)をリストアップし、現状を正確に把握することがスタートです。その上で、「何を、いくらで、どのように」引き継ぐのかを親子間で明確に合意形成する必要があります。
- 贈与: 親から子へ無償で資産を譲る方法です。年間110万円の基礎控除額を超えた部分には贈与税がかかります。高額な資産を一度に贈与すると税負担が大きくなる可能性があるため注意が必要です。
- 売買: 子が親から適正な時価で資産を買い取る方法です。この場合、贈与税はかかりませんが、親側に譲渡所得税がかかる可能性があります。また、子には購入資金が必要になります。
どちらの方法が最適かは、資産の価値や双方の経済状況によって異なります。高額な不動産などが含まれる場合は、税理士などの専門家に相談し、シミュレーションを行った上で最適な方法を選択することをおすすめします。
ポイント2: 顧客・取引先への丁寧な挨拶と説明
長年、親の事業を支えてくれた顧客や取引先は、事業にとって最も大切な財産です。代替わりを機に離れてしまわないよう、丁寧な対応が求められます。
理想的なのは、親子そろって直接挨拶に伺うことです。親からこれまでの感謝を伝え、子からは今後の抱負や変わらぬお付き合いをお願いする。この誠実な姿勢が、相手に安心感と信頼感を与えます。直接訪問が難しい場合は、代替わりを知らせる丁寧な挨拶状を送ることも有効です。その際は、事業承継の経緯や子の人柄が伝わるような内容を盛り込むと、より良い印象を与えられるでしょう。
ポイント3: 許認可の確認と再取得スケジュールの策定
前述の通り、事業に必要な許認可は、子が新たに取得し直さなければなりません。特に注意が必要なのは、許可がなければ営業が一日もできない種類のものです(例:飲食店営業許可)。
親の廃業日と子の開業日を決めると同時に、許認可の申請から取得までにかかる期間を逆算してスケジュールを組むことが極めて重要です。保健所や警察署など、管轄の行政機関に事前に相談し、必要書類や標準的な審査期間を確認しておきましょう。万が一、許可の取得が間に合わず、営業できない期間が発生してしまうと、売上が立たないだけでなく、顧客の信頼も失いかねません。
ポイント4: 親子間の徹底したコミュニケーション
最も重要であり、最も難しいのがこの点かもしれません。事業承継は、単なるビジネスの引継ぎではなく、親子の関係性そのものが深く関わってきます。長年事業を切り盛りしてきた親には、独自のやり方やこだわりがあります。一方、新しい時代の風を取り入れたい子には、改革したい点もあるでしょう。
ここで感情的にならず、お互いをビジネスパートナーとして尊重し、冷静に話し合う場を設けることが不可欠です。「経営理念」「将来のビジョン」「お互いの役割分担」など、根本的な部分からしっかりとすり合わせを行い、合意した内容は簡単な書面にして残しておくと、後のトラブルを防ぐ助けになります。スムーズな事業承継は、良好な親子関係の延長線上にあることを忘れないでください。
まとめ:計画的な準備で、スムーズな事業承継を実現しよう
親から子へ、大切な事業のバトンを繋ぐ事業承継。本記事では、「親の廃業」と「子の開業」を同時に進めるための具体的な手続きと、成功のための重要なポイントを解説してきました。
手続きは多岐にわたりますが、要点をまとめると以下のようになります。
- 廃業と開業の同時進行: 手続きがシンプルで、実質的な事業継続がしやすい最良の選択肢。
- 親の役割: 廃業届や青色申告取りやめ届など、定められた書類を期限内に税務署へ提出する。
- 子の役割: 開業届と青色申告承認申請書をセットで提出し、節税メリットを確実に享受する。
- 成功の鍵: 資産の引継ぎ、顧客への挨拶、許認可の再取得、そして何より親子間の密なコミュニケーション。
これらを一つひとつ計画的に進めることが、スムーズな代替わりを実現し、事業をさらに発展させていくための盤石な土台となります。
特に、これから事業主となる子にとって、開業手続きは未来へ向けた最初の重要なステップです。この手続きをいかに効率的に、そして正確に行うかが、その後の事業運営を左右すると言っても過言ではありません。
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