この情報は、2025年6月9日のGoogle Workspace アップデートブログからのものです。
AIがビジネスのあらゆる場面で生産性を向上させる強力なツールとなる一方で、多くの企業、特に厳格なデータ管理ポリシーを持つ組織にとって、常に一つの大きな懸念が存在しました。
それは、**「AI機能を利用した際、自社の機密データはどこで、どのように処理・保存されるのか?」**という問いです。
Google Workspaceに統合されたAIアシスタント「Gemini」は、文書作成の支援(「Help me write」)から、サイドパネルでの対話まで、私たちの働き方を革新する可能性を秘めていますが、このデータ管理の懸念が、全社的なAI導入の「最後の壁」となっているケースも少なくありませんでした。
しかし、この度、その壁を打ち破るための非常に重要なアップデートが発表されました。
本日より、Google WorkspaceのGemini機能が、組織の「データリージョン」ポリシーに対応します。
これにより、管理者は、Gemini機能によって処理・保存される自社のデータが、物理的にどの地理的な場所に保管されるかを、これまで以上に厳密にコントロールできるようになります。
企業のデータガバナンスとAIの生産性向上を、高いレベルで両立させる時代の到来です。
新機能の核心:Geminiのデータも「場所」を選べる時代へ
「データリージョン」とは、Google Workspaceの管理者が、自社のデータの保存場所を特定の地理的リージョン(地域)に指定できる機能です。これまで、Gmail、カレンダー、ドライブなどのコアサービスのデータに対してこのポリシーを適用できましたが、今回のアップデートにより、その対象がGemini機能にも拡大されました。
具体的に何が変わるのか?
Gemini機能へのポリシー適用: Google ドキュメントの「Help me write」機能で文章のアイデアを求めた際や、サイドパネルのGeminiに質問を投げかけた際に利用されるデータ(プロンプトやその文脈となるドキュメントの一部など)が、管理者が設定したデータリージョンポリシーに従って処理・保存されるようになります。
柔軟な地域設定: 管理者は、自社の要件に応じて、データの処理場所をEU(欧州連合)、米国、またはその両方に設定する柔軟性を持ちます。
組織単位での詳細な制御: このポリシーは、組織全体に適用するだけでなく、特定の組織部門(OU)レベルまで、よりきめ細かく設定することが可能です。例えば、特に機密性の高い情報を扱う法務部門や研究開発部門のデータのみを、特定のリージョンに限定するといった運用ができます。
この機能は、お客様が自社のデータを完全にコントロールできるという、Googleのコミットメントを明確に示すものです。
なぜこれが重要なのか?日本の企業と組織にとっての絶大なメリット
今回のアップデートは、単なる技術的な機能追加ではありません。特に、データセキュリティ、コンプライアンス、データ主権(データソブリンティ)に対する意識が非常に高い日本の企業や組織にとって、これはAI活用を本格化させるための「待望の機能」と言えるでしょう。
1. データ主権とコンプライアンスの遵守
グローバルな規制への対応: 欧州に拠点を持つ、あるいは欧州の顧客と取引のある日本企業にとって、GDPR(一般データ保護規則)への準拠は不可欠です。Geminiが利用するデータをEU内に留める設定ができることで、GDPR要件を満たしつつ、最新のAI機能を安心して利用できるようになります。
厳格な社内規定や業界規制への準拠: 金融、医療、公共セクターなど、特に厳格なデータ管理ポリシーを持つ業界では、「データが国外に出ることを極力避けたい」という強いニーズがあります。今回のアップデートは、データの保管場所を明確にコントロールできるため、こうした企業のセキュリティポリシーや業界規制の要件を満たす上で、非常に大きな安心材料となります。
2. AI導入の「最後の壁」を突破
これまで、多くの企業のIT部門やコンプライアンス部門は、AIの利便性を認識しつつも、データの国外移転や処理場所の不透明さを理由に、全社的な導入に慎重な姿勢を取らざるを得ませんでした。
導入への明確な「GOサイン」: データリージョンポリシーがGeminiにも適用されることで、データガバナンスに関する最大の懸念点が解消されます。これにより、セキュリティ部門や経営層は、自信を持って全社的なAI活用の「GOサイン」を出すことができるようになります。
「シャドーAI」のリスク低減: 会社が公式にAIツールを提供しない場合、従業員がセキュリティ管理外の個人向けAIサービスに会社の情報を入力してしまう「シャドーIT(シャドーAI)」のリスクが高まります。会社が公式に、かつ安全に利用できるGeminiを提供することで、こうしたリスクを低減し、ガバナンスを維持できます。
3. 全社的なAI活用を安心して推進
一貫したポリシー適用: 管理者が一度ポリシーを設定すれば、組織内のすべての対象ユーザー(または特定の部門のユーザー)に対して、Geminiの利用が一貫してそのポリシーの下で行われます。ユーザー一人ひとりがデータの保存場所を気にする必要はなく、管理者は組織全体のデータガバナンスを確実に維持できます。
生産性向上とセキュリティの両立: これにより、企業は「セキュリティを優先するためにAIの利用を制限する」というトレードオフから解放されます。全従業員がGeminiの力を借りて日々の業務効率を向上させながら、組織として最高レベルのデータセキュリティを維持するという、理想的な状態を実現できます。
4. Assured Controlsとの連携による最高レベルの統制
このデータリージョン機能は、Google Workspaceの高度なセキュリティ・コンプライアンス機能群である「Assured Controls」の一部としても提供されます。Assured Controlsは、データのアクセス管理や暗号鍵の管理など、さらに厳格な要件を持つ組織向けの機能を提供しており、今回のアップデートは、この強力なガバナンス体制をAIの世界にも拡張するものと言えます。
管理者向け情報:設定と対象ユーザー
今回のアップデートは、主にGoogle Workspaceの管理者向けの機能です。エンドユーザーの皆様は、何か特別な操作を行う必要はありません。
管理者向けの設定:
データリージョンポリシーの設定や詳細については、Google Workspace 管理コンソールのヘルプセンターをご参照ください。
展開スケジュール:
迅速リリース(Rapid Release)ドメインおよび計画的リリース(Scheduled Release)ドメイン: すでに利用可能です。
利用可能な対象:
この高度な機能は、以下のGoogle Workspaceエディションをご利用のお客様に提供されます。
Google Workspace Enterprise Plus
Assured Controls または Assured Controls Plus アドオンをご利用のお客様
ご自身の組織がこれらのエディションの対象であるか、ご確認ください。
まとめ:イノベーションとガバナンスの架け橋
今回のGoogle Workspaceのアップデートは、AIという最先端のイノベーションと、企業に不可欠なデータガバナンスとの間に、強固な橋を架けるものです。Geminiの強力な機能がデータリージョンポリシーに対応したことで、これまでセキュリティやコンプライアンスの懸念からAI導入に踏み出せなかった多くの企業にとって、その扉が大きく開かれました。
これにより、組織は自信を持ってAI活用を推進し、全従業員の生産性を向上させると同時に、自社の最も重要な資産であるデータを、自らのポリシーに従って厳格に保護し続けることができます。
Google Workspaceは、これからも企業のデジタルトランスフォーメーションを、セキュリティとイノベーションの両面から力強く支援し続けます。