社員の退職は、どの企業にとっても避けては通れない人事イベントです。
しかし、その裏側で情報漏洩などの重大なセキュリティリスクが潜んでいることをご存知でしょうか。
特に、日々の業務で利用するGoogle Workspaceのオフボーディング(退職者アカウントの処理)は、手順を一つ間違えるだけで、会社の機密情報が危険に晒される可能性があります。
「うちの会社は大丈夫だろう」そう思っている管理者の方ほど、実は基本的な設定を見落としているケースが少なくありません。
この記事では、2025年9月時点の最新情報に基づき、社員の退職時に必ず確認すべきGoogle Workspaceのセキュリティ設定を5つのステップで徹底解説します。
このガイドを読めば、退職処理の不安を解消し、鉄壁のセキュリティ体制を構築するための具体的な方法がわかります。
なぜGoogle Workspaceのオフボーディングが重要なのか?
社員の退職手続きと聞くと、多くの管理者はPCの返却や貸与品の回収といった物理的な作業に意識が向きがちです。しかし、現代のビジネス環境において、それ以上に重要なのがデジタル資産の管理、すなわちGoogle Workspaceのアカウント処理です。オフボーディングが不十分だと、具体的にどのようなリスクが生じるのでしょうか。4つの側面からその重要性を掘り下げてみましょう。
情報漏洩という最悪のシナリオ
最も恐ろしいリスクは、退職者による意図的、あるいは偶発的な情報漏洩です。退職後もアカウントが有効なまま放置されていると、退職者はいつでもGmail、Googleドライブ、Google Chatなどにアクセスできてしまいます。そこには、顧客リスト、開発中の製品情報、財務データといった会社の生命線ともいえる機密情報が詰まっています。悪意のある退職者がこれらの情報を競合他社に売却したり、私的に利用したりする可能性はゼロではありません。また、悪意がなくとも、個人のデバイスに同期されたままのデータが、デバイスの紛失やマルウェア感染によって外部に流出するケースも考えられます。
アカウントの不正利用と企業の信頼失墜
退職者のアカウントは、サイバー攻撃者にとって格好の標的です。使われなくなったアカウントは監視が甘くなりがちで、乗っ取られても気づかれにくいからです。もしアカウントが乗っ取られれば、攻撃者はその社員になりすまして社内外にフィッシングメールを送信したり、社内システムに侵入するための足がかりにしたりするでしょう。取引先に対して元社員の名前で偽の請求書が送られれば、金銭的な被害だけでなく、企業の社会的信用は大きく損なわれます。
見えないコストの垂れ流し
Google Workspaceはユーザー単位でライセンス費用が発生します。退職者のアカウントを削除せずに放置することは、誰も使わないライセンスにお金を払い続けることを意味します。一人分であれば少額かもしれませんが、従業員の入れ替わりが激しい組織では、年間で見ると決して無視できない金額になるでしょう。適切なオフボーディングは、セキュリティ対策であると同時に、コスト管理の観点からも不可欠なのです。
コンプライアンス違反のリスク
個人情報保護法や業界固有の規制(例えば医療や金融)では、データへのアクセス権を厳格に管理することが求められます。退職後もアカウントへのアクセス権が残っている状態は、これらのコンプライアンス要件に違反する可能性があります。万が一、監査で指摘されたり、情報漏洩事故が発生したりした場合、企業は法的な責任を問われ、高額な罰金を科されるリスクに直面します。
このように、オフボーディングは単なる「後始末」ではなく、企業のリスク管理における極めて重要なプロセスなのです。
【基本編】まずやるべきGoogle Workspaceオフボーディング設定3選
退職者が出た際に、迅速かつ確実に行うべき基本的なセキュリティ設定があります。これらは情報漏洩の入り口を塞ぐための応急処置ともいえる重要なステップです。ここでは、Google Workspaceの管理コンソールで「まずこれだけはやっておくべき」3つの設定を、その理由とともに解説します。
1. パスワードの即時リセットとリカバリー情報の変更
退職が確定した、あるいは最終出社日を迎えたら、間髪入れずにパスワードをリセットしましょう。これにより、退職者本人がアカウントにログインすることを即座に防ぎます。同時に、再設定用の電話番号やメールアドレスといった「リカバリー情報」も、管理者のみが把握するものに変更・削除しておくことが重要です。これを怠ると、退職者が「パスワードを忘れた場合」の機能を使って、再びアカウントにアクセスできてしまう可能性があるからです。
- 操作手順: Google管理コンソール > [ユーザー] > 該当ユーザーを選択 > [パスワードを再設定]
- ポイント: 「次回ログイン時にパスワードの変更を要求する」のチェックは外しておきましょう。管理者が設定したパスワードで固定するためです。
2. すべてのセッションからログアウトさせる
パスワードを変更しただけでは、実は不十分な場合があります。なぜなら、退職者が会社のPCや個人のスマートフォン、自宅のPCなどでGoogle Workspaceに「ログインしたまま」になっている可能性があるからです。これらのセッションは、パスワードが変更されてもすぐには無効になりません。そこで、強制的にすべてのアクティブなセッションからログアウトさせる必要があります。これにより、あらゆるデバイスからのアクセスを一度リセットし、再ログインを求める状態にできます。
- 操作手順: Google管理コンソール > [ユーザー] > 該当ユーザーを選択 > [セキュリティ] > [ログイン中のCookie] > [リセット]
- ポイント: パスワードリセットとこの操作は、必ずセットで行うと覚えておきましょう。
3. アカウントの「停止」(いきなり削除はNG!)
アクセスを遮断したら、次にアカウントを「停止」します。ここで重要なのは、いきなり「削除」しないことです。アカウントを削除してしまうと、そのユーザーが所有していたGoogleドライブのファイルやメールデータなどが完全に失われてしまいます(一定期間内であれば復元可能ですが、手間がかかります)。後任者へのデータ引き継ぎや、法的な要件でデータを保持する必要がある場合に備え、まずはアカウントを「停止」状態にするのが鉄則です。
アカウントを停止すると、ユーザーはログインできなくなり、新しいメールやカレンダーの招待も受信しなくなりますが、データや設定は保持されます。この停止期間中に、後述するデータの移行作業などを落ち着いて行うことができます。
- 操作手順: Google管理コンソール > [ユーザー] > 該当ユーザーにカーソルを合わせる > [その他のオプション] > [ユーザーを停止]
- ポイント: 会社のポリシーとして、停止期間(例:30日〜90日)を定めておくと、運用がスムーズになります。
以上の3ステップは、オフボーディングの基本中の基本です。まずはこの手順を徹底し、セキュリティの第一防衛ラインを固めましょう。
【応用編】見落としがち!高度なセキュリティ設定2選
基本的なアカウント処理を終えても、まだ安心はできません。Google Workspaceのセキュリティホールは、思わぬ場所に潜んでいます。特に、データの所有権や外部サービスとの連携は、多くの管理者が対応を忘れがちなポイントです。ここでは、より強固なセキュリティ体制を築くための、一歩進んだ設定を2つ紹介します。
4. データのオーナー権限の移行(Googleドライブ・カレンダー)
退職者のアカウントを停止しても、その人が作成したGoogleドライブのファイルやフォルダ、Googleカレンダーの予定の「オーナー(所有者)」は退職者のままです。これが後々、業務に支障をきたすことがあります。
- Googleドライブ: 退職者がオーナーのファイルは、後任者や他のチームメンバーが編集や共有設定の変更ができない場合があります。最終的にアカウントを削除すると、これらのファイルは完全に削除されてしまう可能性があります。
- Googleカレンダー: 退職者がオーナーの定例会議などの予定は、退職者のアカウントを削除すると、参加者全員のカレンダーから消えてしまうことがあります。
こうした事態を防ぐため、アカウントを削除する前に、必ずデータのオーナー権限を後任者や部署の共有アカウントなどに移行する必要があります。
- 操作手順: Google管理コンソール > [アプリ] > [Google Workspace] > [ドライブとドキュメント] > [オーナー権限を譲渡]
- ポイント: 誰にどのデータを移行するか、事前に引き継ぎ計画を立てておくことが重要です。移行作業には時間がかかる場合があるため、アカウント停止期間中に余裕をもって行いましょう。
5. アプリ固有のアクセス権の剥奪と外部連携の確認
現代の業務では、Googleアカウントを利用して様々なサードパーティ製のクラウドサービス(例: Slack, Asana, Salesforceなど)にログイン(SSO: シングルサインオン)することが一般的です。これは非常に便利な反面、オフボーディングにおいては重大なセキュリティリスクとなります。
Googleアカウントのパスワードを変更し、停止しても、これらの外部サービスへのアクセス権が有効なまま残ってしまうケースがあるのです。退職者が外部サービスに直接アクセスし、そこに保管されている会社の情報を閲覧したり、操作したりする可能性があります。これは非常に見落としやすく、危険なセキュリティホールです。
管理者は、退職者のアカウントに紐づくすべての外部アプリ連携を確認し、不要なアクセス権を一つひとつ手動で取り消す必要があります。
- 操作手順: Google管理コンソール > [ユーザー] > 該当ユーザーを選択 > [セキュリティ] > [接続済みのアプリケーション] を確認し、アクセス権を取り消す。
- 独自の視点: この作業は非常に手間がかかるため、多くの企業で見過ごされています。入社時にどのサービスへのアクセスを許可したか、リスト管理しておくことが理想的です。また、Google WorkspaceのBusiness Plus以上のプランでは、より高度なアプリ管理やセキュリティ機能が利用できるため、こうしたリスクを組織的に低減することが可能です。
これらの応用設定を確実に行うことで、退職に伴う潜在的なリスクの大部分をカバーし、より安全な組織運営を実現できます。
オフボーディングを効率化し、未来のリスクに備える
これまで解説してきたオフボーディングの各ステップは、手作業で行うと非常に煩雑で、ミスが発生しやすいものです。退職者が出るたびに管理者がこれらの作業に追われるのは非効率的ですし、ヒューマンエラーのリスクも常に付きまといます。そこで、オフボーディングプロセス自体を改善し、より効率的かつ安全な仕組みを構築するためのヒントをご紹介します。
オフボーディングのチェックリストを作成する
まずは、誰が、いつ、何をすべきかを明確にした「オフボーディング・チェックリスト」を作成しましょう。これにより、作業の抜け漏れを防ぎ、担当者が変わっても同じ品質でプロセスを実行できます。チェックリストには、以下のような項目を含めると良いでしょう。
- 退職日(最終出社日)の確認
- 【即日対応】パスワードのリセット
- 【即日対応】全セッションからのログアウト
- 【即日対応】アカウントの停止
- 【1週間以内】データのオーナー権限の移行(対象データと移行先を明記)
- 【1週間以内】外部連携アプリのアクセス権剥奪
- 【30日後】アカウントのデータアーカイブ(Google Vault利用など)
- 【90日後】アカウントの削除
このチェックリストを人事部と情報システム部で共有し、連携して進める体制を整えることが理想です。これにより、属人化を防ぎ、組織としての対応力を高めることができます。
Google Workspaceの高度なプランでセキュリティを自動化する
より根本的な解決策として、Google Workspaceのプランを見直すことも有効な手段です。特に従業員数が増えてきたり、より厳格な情報管理が求められたりする企業には、Business PlusやEnterpriseといった上位プランへのアップグレードをおすすめします。
例えば、Business Plusプラン以上で利用できる「Google Vault」は、退職者のデータを安全に保持・アーカイブし、後から必要な情報を検索・書き出すことができる強力なツールです。これにより、訴訟などに備えた法的要件(eDiscovery)にも対応できます。アカウントを削除した後でもデータを安全に保管できるため、安心してオフボーディングを進められます。
さらに、Enterpriseプランで利用可能な「データ損失防止(DLP)」機能を使えば、「社外秘」とラベル付けされたファイルが外部に共有されようとした際に自動でブロックするなど、情報漏洩を未然に防ぐルールを設定できます。これは、在職中の従業員だけでなく、退職時の意図せぬ情報持ち出しを防ぐ上でも非常に効果的です。
もちろん、上位プランにはコストがかかりますが、一度の情報漏洩事故がもたらす損害(信用の失墜、賠償金など)を考えれば、これは「保険」として非常に価値のある投資といえるでしょう。現在、当サイトではGoogle Workspaceの各プランをお得に契約できるプロモーションコードを配布しています。プランのアップグレードや新規導入を検討する際は、ぜひご活用ください。
まとめ
今回は、社員の退職時に見落としがちなGoogle Workspaceのオフボーディング設定について、基本から応用まで5つの重要なステップを解説しました。
要点をまとめると以下の通りです。
- パスワードリセットとリカバリー情報の変更で、即座にアクセスを遮断する。
- 全セッションからログアウトさせ、ログイン状態のデバイスからのアクセスを防ぐ。
- アカウントはすぐに削除せず、まずは「停止」してデータ保全期間を設ける。
- ファイルやカレンダーのオーナー権限を後任者に移行し、業務の停滞を防ぐ。
- 見落としがちな外部連携アプリのアクセス権を剥奪し、裏口からの侵入を防ぐ。
これらの設定は、企業の貴重な情報資産を守り、信頼を維持するための生命線です。セキュリティ対策は「何かあってから」では手遅れです。この機会に、ぜひ自社のオフボーディングプロセスを見直し、チェックリストを作成するなど、プロアクティブな対策を講じてみてください。
これからGoogle Workspaceの導入を検討している方や、より高度なセキュリティ機能を持つプランへのアップグレードを考えている方は、こちらのページで配布している限定プロモーションコードを利用することで、コストを抑えながらセキュリティ強化を実現できます。まずはGoogle Workspaceの14日間無料トライアルから、その機能性を体験してみてはいかがでしょうか。