契約業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)化が進み、多くの企業で電子契約サービス「クラウドサイン」が導入されています。
しかし、「契約の締結」は電子化できたものの、その後の関連業務に追われていませんか?
例えば、締結済みの契約書PDFをダウンロードし、ファイル名を変更、指定のフォルダに格納、そして関係部署にSlackやメールで通知する…。
これらの「手作業」は、地味ながらも時間を奪い、ヒューマンエラーの原因にもなり得ます。
もし、この一連の作業がすべて自動化できるとしたら、あなたの業務はどれだけ効率的になるでしょうか。
本記事では、iPaaS(Integration Platform as a Service)である「n8n」とクラウドサインを連携させ、契約締結後の面倒な処理を完全に自動化する具体的な方法を、ワークフローの事例を交えて徹底的に解説します。
(この記事は2025年12月時点の情報に基づいています。)
なぜ今、契約業務の「締結後」の自動化が重要なのか?
電子契約サービス「クラウドサイン」の登場は、契約業務における「紙とハンコ」の文化に革命をもたらしました。郵送コストや印紙代の削減、リードタイムの短縮など、その恩恵は計り知れません。しかし、業務全体を見渡したとき、まだ多くの「手作業」が残っているのが実情です。
クラウドサインだけでは解決できない「分断された業務」
契約業務は、締結して終わりではありません。むしろ、締結してからがスタートとも言えます。以下の様な業務に心当たりはないでしょうか。
- ファイル管理: 締結完了メールを確認し、クラウドサインにログイン。PDFファイルをダウンロードし、命名規則に従ってファイル名を変更。そして、Google DriveやSharePointの案件フォルダに手動で保存する。
- 関係者への通知: 営業担当者、法務、経理など、関係する全部署へ契約締結の旨をSlack、Chatwork、メールなどで個別に連絡する。
- 台帳管理: 契約管理用のスプレッドシートやkintoneに、取引先名、契約締結日、契約金額などの情報を手入力で更新する。
- 次のアクションへの連携: 締結された契約に基づき、経理担当者が請求書発行システムに情報を入力する。
これらの作業は一つ一つは単純ですが、積み重なると相当な工数になります。また、手作業である以上、ファイル名の付け間違い、保存場所のミス、通知漏れといったヒューマンエラーのリスクが常につきまといます。この「契約締結」と「その後の業務」の分断こそが、DX化された現代においても生産性を阻害する大きな要因なのです。
分断された業務を「つなぐ」n8nの力
そこで活躍するのが、iPaaSであるn8n(エヌ・エイト・エヌ)です。n8nは、異なるクラウドサービスやアプリケーション同士を連携させ、一連の業務プロセスを自動化するためのツールです。
プログラミングの専門知識がなくても、ワークフローと呼ばれる視覚的な画面上で「Aが起きたらBを実行する」といったシナリオを直感的に構築できます。n8nを使えば、クラウドサインの「契約締結」をトリガーとして、前述したファイル管理、通知、台帳更新といった一連の作業をすべて無人化することが可能になります。
ZapierやMakeといった他のiPaaSツールと比較して、n8nは特にSelf-host(自社サーバーで運用)が可能である点や、複雑な分岐処理、エラーハンドリングを柔軟に設計できる点で高く評価されており、セキュリティ要件が厳しい契約業務の自動化にも安心して利用できるのが大きな強みです。
実践!クラウドサインとn8nで作る契約業務自動化ワークフロー
それでは、具体的にどのような自動化が実現できるのか、n8nを使ったワークフローの構築例を見ていきましょう。ここでは、最もニーズの高い「契約締結後のファイル保存と関係者への通知」を自動化するシナリオを解説します。
【STEP1】トリガー設定:契約締結をn8nが検知
ワークフローの起点となるのがトリガーです。n8nには「Webhookノード」という機能があり、外部サービスからの情報を受け取ることができます。クラウドサインには、特定のイベント(例: 書類が締結された)が発生した際に、指定したURLへ情報を送信する「Webhook機能」が備わっています。
まず、n8nでWebhookノードを設置して固有のURLを生成し、そのURLをクラウドサインのWebhook設定画面に登録します。これにより、クラウドサイン上で契約書が締結されると、その書類情報(書類ID、タイトル、取引先情報など)がリアルタイムでn8nに送信され、ワークフローが自動的にスタートします。
【STEP2】アクション設定:PDFのダウンロードとリネーム
トリガーで受け取った書類IDを使い、n8nの「HTTP Requestノード」でクラウドサインのAPIを呼び出して、締結済みの契約書PDFをダウンロードします。
次に、ダウンロードしたPDFのファイル名を、分かりやすいように変更します。例えば、トリガーで受け取った「取引先名」と「締結日」の情報を使い、「Functionノード」などで簡単な処理を加えることで、「【契約書】株式会社〇〇_20251210.pdf」のような統一された命名規則に自動でリネームすることが可能です。これにより、後からファイルを探す際の手間が大幅に削減されます。
【STEP3】アクション設定:クラウドストレージへの自動保存
リネームしたPDFファイルを、指定のクラウドストレージに保存します。n8nには、Google Drive、Dropbox、SharePointなど、主要なクラウドストレージに対応した専用ノードが用意されています。
例えば、「Google Driveノード」を使えば、保存先のフォルダを指定するだけで簡単にファイルをアップロードできます。さらに、取引先名や年度ごとにフォルダを動的に作成・選択することも可能で、人の手によるフォルダ分け作業を完全に排除できます。
【STEP4】アクション設定:関係者への完了通知
最後に、関係者へ契約締結が完了したことを通知します。「Slackノード」や「Gmailノード」を使い、法務部や経理部、担当営業のチャンネルや個人宛にメンション付きで通知を送ります。
この際、ただ「完了しました」と送るだけでなく、ワークフローの途中で取得した「取引先名」「契約名」「契約金額」といった情報をメッセージに含めることで、受信者は一目で内容を把握でき、コミュニケーションコストを大幅に削減できます。例えば、以下のような通知が自動で投稿されます。
「@営業担当者 @経理担当者 契約締結が完了しました。取引先: 株式会社〇〇、案件名: 〇〇システム開発契約、契約金額: 5,000,000円。契約書はGoogle Driveの所定フォルダに格納済みです。」
このようなワークフローを一度設定しておくだけで、これまで30分以上かかっていた一連の作業が、わずか数秒で、しかもミスなく完了するのです。
n8n連携で広がる!契約業務DXのネクストステップ
クラウドサインとn8nの連携は、ファイルの保存や通知だけにとどまりません。n8nがハブとなることで、契約業務に関連するあらゆるシステムをつなぎ、真の業務DXを実現できます。
CRM/SFAとの連携による顧客管理の高度化
SalesforceやHubSpotといったCRM/SFAツールと連携させることで、契約業務と営業活動をシームレスに繋ぐことができます。
- 取引フェーズの自動更新: 契約が締結されたら、Salesforce上の商談フェーズを自動的に「受注」に更新する。
- 顧客情報との紐付け: 締結された契約書PDFのURLを、HubSpotの顧客レコードに自動で追加し、情報を一元管理する。
これにより、営業担当者は入力の手間から解放され、営業活動の状況がリアルタイムで正確に反映されるようになります。
会計ソフトとの連携による請求プロセスの自動化
freee会計やMoney Forwardクラウド会計などの会計ソフトと連携させれば、請求業務の起点も自動化できます。
- 請求書作成のトリガー: 契約締結後、契約情報(請求先、金額、支払条件)を元に、会計ソフト側で請求書の下書きを自動で作成する。
経理担当者は作成された下書きを確認して送信するだけで済むため、二重入力の手間や入力ミスを防ぎ、月初の請求業務の負荷を大幅に軽減します。
契約更新管理の自動化
契約管理で最も重要な業務の一つが「更新管理」です。n8nを使えば、この管理も自動化できます。
- 更新時期のリマインド: 契約管理台帳(スプレッドシートやAirtableなど)をn8nが定期的にチェック。契約終了日の1ヶ月前になったら、担当者に「〇〇の契約が来月更新時期です」といったリマインド通知を自動で送信する。
これにより、「うっかり契約更新を忘れていた」といった重大なミスを未然に防ぎ、適切なタイミングでアクションを起こすことが可能になります。
このように、n8nは単なるタスク自動化ツールではなく、部門間やシステム間に存在する業務の「溝」を埋め、ビジネスプロセス全体を最適化する強力なプラットフォームとなり得ます。n8nのさらに詳しい機能や料金体系、そして今回紹介したSelf-host版とCloud版の違いについては、こちらのn8n完全ガイド記事で網羅的に解説していますので、ぜひご覧ください。
まとめ:手作業から解放され、価値ある仕事へ
本記事では、クラウドサインとn8nを連携させることで、契約締結後の煩雑な業務を自動化する具体的な方法とその可能性について解説しました。電子契約を導入してもなくならなかった「手作業」の数々が、n8nによって無人化され、業務プロセスが劇的に改善されるイメージが掴めたのではないでしょうか。
契約業務の自動化は、単に時間を節約するだけではありません。ヒューマンエラーをなくし、ガバナンスを強化し、そして何よりも、創出された時間で「人でなければできない、より付加価値の高い仕事」に集中することを可能にします。
まずは「締結済みPDFをGoogle Driveに保存してSlackで通知する」といった簡単なワークフローからで構いません。スモールスタートで自動化の成功体験を積むことが、全社的なDX推進の第一歩となります。
n8nは無料で試せるプランも用意されています。ぜひこの機会に、契約業務の新しい形を体験してみてください。未来の働き方は、あなたのその一歩から始まります。